あなたの生命保険は大丈夫? -超長期国債依存が進む生命保険会社-

井上 悦義

池田信夫先生の記事で“逃げ遅れた地方銀行”とあるが生命保険会社も同様だろう。生命保険会社の国債依存は異常に思える。2011年3月末時点のかんぽ生命、日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命の国債保有残高などをまとめてみた。


各生保の国債保有残高は、かんぽ生命64.1兆円、日本生命13.4兆円、第一生命11.1兆円、明治安田生命10.0兆円、住友生命7.3兆円となっている。かんぽ生命は総資産96.8兆円のうち、66.2%が国債に成り代わっており、他の4社も総資産のうち、25%~40%程度が国債に成り代わっている。

国債価格が下落(=金利が上昇)すれば、当然金融機関は損失が発生する。実際に決算毎に損失計上をする必要があるかどうかは、国債の保有区分にもよるため(満期保有目的債券、責任準備金対応債券(保険会社だけに認められた区分)であれば時価評価不要)、「国債価格の下落=即座に損失表面化」とはならないが、損失が表面化しようがしまいが、資産が裏側で劣化するのは同じことだ。

かんぽ生命は純資産1.2兆円に対する国債の保有倍率は何と53.1倍と驚愕の数字となっているため、保有する国債の価格が2%弱下落するだけで純資産を上回る資産劣化が生じる。(生命保険会社には「実質純資産額(時価ベースの資産から資本性のない実質的な負債を差し引いたもの)」という考え方があり、これに基づけば、生命保険会社の財務状況はより安全と言えるのだろうが、この概念は一般的になじみが薄いため、どこまで大きな意味を持つのか疑問だ。)

また国債の償還(満期)までの期間が長ければ長いほど、同じ1%の金利上昇でも国債価格の下落幅は大きい。よって、各生保が保有する国債の償還予定額の内訳も見た方が良い。それが以下だ。

いずれの生保も多額の10年超の国債を保有している。ここまで超長期国債への投資が過多になると、各生保が保有する国債価格は、金利1%の上昇で10%程度下落してもおかしくない。生命保険会社という性格上、お客様の資産を長期で運用する必要性があるのは分かるが、超長期国債に偏った資産運用を継続するのは、経営上、望ましくないはずだ。今の日本政府の財政状況から、何かをきっかけに長期金利が突然跳ね上がるということは十分に有り得るからだ。

各生命保険会社とも「ソルベンシー・マージン比率」という“通常の予測を超えたリスクに対応する余力を示す指標”を公開している。保険会社は通常の予測を超えるリスクが発生した場合でも、契約者に対して保険金の支払いをする必要があるため、この指標を定めているが、資産が超長期国債に偏った生命保険会社の「ソルベンシー・マージン比率」など、国債暴落時には何ら意味をなさなくなるだろう。そのような事態になった場合、あっという間に多額の損失を計上し、経営危機となる会社も出てくるはずだ。

生命保険会社が経営破綻した場合には、国内で事業を行うすべての生命保険会社が加入する「生命保険契約者保護機構」により、一定の契約者保護が図られるが、制度上、保障される保険の減額は避けられなくなるだろう。そして、「生命保険契約者保護機構」の財源も、借入限度額が4600億円(プラス政府補助)と少ないため、資産規模が大きい生命保険会社が1社でも経営破綻するような事態になれば、財源は枯渇することだろう。財源が枯渇してしまえば、破綻した生命保険会社の受け皿さえなくなってしまうということもあり得る。もちろん、国債が暴落している状況では、日本政府も破綻した生命保険会社を満足に救済できるだけの体力はない。

顧客である我々には「万が一のリスクに備えて」と保険を売っておきながら、保険会社自らは国債の下落リスクに無頓着であり、何か矛盾を感じるのは私だけであろうか。生命保険に加入している方は、加入する生命保険会社の財務状況を調べてみてはいかがでしょうか。

参考までに以下に各社の国債保有残高の推移を掲載しておくが、(かんぽ生命を除き)すべての生命保険会社で国債の保有残高が上昇している。なお、ゆうちょ銀行と同様に、かんぽ生命の国債保有残高は減ってきているため、今後の国債の受け皿として大きな期待はできないことも付記しておく。

かんぽ生命 国債保有残高 推移グラフ(1)_201103
かんぽ生命 国債保有残高 推移グラフ(2)_201103
日本生命 国債保有残高 推移グラフ(1)_201103
日本生命 国債保有残高 推移グラフ(2)_201103
第一生命 国債保有残高 推移グラフ(1)_201103
第一生命 国債保有残高 推移グラフ(2)_201103
明治安田生命 国債保有残高 推移グラフ(1)_201103
明治安田生命 国債保有残高 推移グラフ(2)_201103
住友生命 国債保有残高 推移グラフ(1)_201103
住友生命 国債保有残高 推移グラフ(2)_201103

※備考:2006年3月の純資産は「資本の部=純資産の部」としている。また、上記グラフは、各生保の財務諸表から数値を拾って作成したものとなる。複数回以上チェックをしたため、作成ミスはないものと信じるが、何かしらのミスがある可能性がゼロではない。その点はご容赦願いたい。

参考資料
生命保険会社(総資産規模上位) 国債保有高一覧 ※2010年9月末時点
財政破綻は他人事ではない ~ゆうちょ銀行/メガバンク国債保有残高一覧(2011年3月時点)~