アップルは、終わった……

田代 真人

10月5日に亡くなったアップル共同創業者スティーブ・ジョブズについて語られたブログは相当数に上っている。先日銀座のAppleStoreを訪れたが、同様に多くの方が献花をおこない、故人を悼んでいた。私自身20年以上のMacintosh愛用者として、訃報に接したとき、何ともいえない感情が心の内に拡がっていったことは否めない事実だ。


多くの人々と同じように、ジョン・レノンの死を聞いたときに抱いた感情に似た想い……。今後、アップルはどうなるのだろうか? 画期的な革新的製品を生み出す人物がこの世を去っていったことの寂しさが胸の内に充満する。ワクワク・ドキドキと心の高鳴りを与えてくれたジョブズのプレゼンに接することはもうない。

彼がCEOを辞したとき、同じように思ったが、実はどこかでまた復帰してくれるという期待もあった。しかし、この世にいなくなった限り、それは不可能となった。一ファンとしては絶望ともいえる。そう、この感情がジョン・レノンが去ったときと同じ感情を我が胸に呼び起こしたのだ。ジョン・レノンが生きている限り、ビートルズの再結成はありうると……。わずかに期待して歳を重ねていた自分。だが、その淡い期待はジョンの死によって打ち砕かれた。

「もう二度とビートルズの新作は出ない」——そういう想い、現実が重くのしかかってきた。

アップルも堅実なティム・クックCEOのもと、今後も新製品は発表されるだろう。数年間は、ジョブズが企画・発案した製品が発表されると思う。たしかにその製品にはジョブスの魂が宿ったものになるのだろう。しかし、それはビートルズが昔の音源を使って『Free as a bird』を発表したように、ほんの数曲が“新作”として発表されるにすぎない。

終わってしまったのだ。

ジョン・ボーナムが死んでしまい、レッド・ツェッペリンが解散したように。フレディ・マーキュリーが死んでクイーンの本当の新作が発表されないように。アップルは、終わった。我々はその事実を胸に刻み込む必要がある。そして生き続ける。その業績と精神——ジョブズが信じ続けたスチュアート・ブランドの『Whole Earth Catalog』最終ページに書かれた「Stay Hungry Stay Foolish」という言葉とともに。

(田代真人/編集者)