DeNA社の球団買収はワンポイントリリーフである可能性

阪上 健生

横浜ベイスターズの身売り問題で、売却先がモバゲーを運営するDeNA社に決定的になり、あとはオーナー会議で正式承認を待つだけとなった。昨年の住生活グループとの交渉は直前で決裂しましたが、今回はすんなり決まりそうで不思議な感じがしました。

最初に違和感を感じたのは渡辺恒雄氏のこんな発言

(反対意見は)ないんじゃないかね。だって、オーナー会議の半分近くが、何か知らんがIT関係。主力産業が日本の産業構造の変化と並行して変わってきている」

私の知っている渡部氏とは思えないような、昔と違って随分柔軟な考え方になったんですね。でもそれはおっしゃるとおりで、近年日本の産業構造が変わってきているのだから球団を所有する企業の業種も変わるのは当然です。そう考えると、全盛期のライブドアが球団を買収できなかったのは、やはり時期尚早だったのか交渉方法が悪かったのか気になるところではあります。


DeNA社が長期保有の可能性に対する疑問は確かにあるが、同社はチリやベトナムなど新興国のゲーム開発会社を買収して開発を強化しています。また、販路の拡大についても米国の通信事業者であるAT&Tと提携するなど国内ではいずれ来るコンテンツ販売ビジネスの限界の前に国外展開にも取り組んでいるので、盤石とは言えなくとも球団長期保有は問題無いように思える。

問題は本拠地を横浜スタジアムから移転するかどうかで、昨年、住生活グループとの交渉が決裂した一番の原因でもあり重要なポイントだ。横浜スタジアムは年間約8億円といわれる高額な使用料の他、看板や物販・売店の収益は横浜スタジアムが全部取得する。さらに、セリーグ最少の3万人の収容人数も物理的な制約になっている。楽天を例にとれば、本拠地のKスタ宮城の使用料は年間5千万円で、こちらは看板や物販・売店の収益は楽天側が手にすることができるので、立地条件が違うことを考慮しても違いは歴然としている。したがって、球団の黒字経営をするには横浜スタジアムとの”不平等条約”を改定するか、決別することが必至になるだろう。横浜スタジアムはこの契約に対し去年は譲歩するどころか球団側にもっと集客するように不満を言う有様だったが、今年は柔軟な対応とっているところも不思議なところだ。今のところ、DeNA社は来季も横浜スタジアムで行くようだが、将来的に移転を考えているに違いない。同じく横浜の買収を狙う京浜急行電鉄も「みなとみらい地区」にドーム球場建設を構想している。この身売り問題でDeNA社の株価が下がり、TBSホールディングスが上がっているところから市場もこの横浜スタジアムを大きな荷物と見ているに違いない。

球場の問題さえクリアーにできればDeNA社が長期保有することもできそうだが、それでもDeNA社が球団を持つのは数年では無いかと思う。野球ではワンポイントリリーフというのがある。打者1人に限定して投手を登板させることを言うのだが、DeNA社はまさに球団と横浜スタジアムとの関係を解消するためのワンポイントリリーフではないだろうか。既得権益者に対し、新興企業をぶつけて問題を解決し、更地になったあとに住生活グループや京浜急行電鉄など他の企業が引き継ぐのではないだろうか。DeNA社にとっても数年の球団経営で十分な知名度やブランド力を得るのでその方が好都合だろう。もちろん、そんな短期間の球団所有目的ではオーナー会議は許さないと思うが、去年とは周りの雰囲気が違う今年の身売り問題は、このような可能性を考えさせられます。

サイトM&Aコンサルタント 阪上健生