TPPと米国陰謀説について

小幡 績

まだTPPの話題が尽きないので、少し別の角度から。

TPPは米国の陰謀で、いったん入ったら、米国にしゃぶり尽くされる、というような議論が一部にあったが、陰謀説が出てきた瞬間に、その言説は力を失うことは間違いがない。したがって、TPP反対を米国陰謀説で唱えた人々に関しては、今後、信用しないことにしている。

もし、米国の戦略について議論するのであれば、TPPはもちろん、米国の幅広い外交戦略の一環であり、外交的意図はある。

それは、対中国とのバランス、ということだ。

米国は、特に共和党政権においては顕著となるが、アジアにおける、中国と日本のバランスを常に意識している。近年中国が強くなったので、共和党時代は、日本を以前よりも支援する立場になっていた。

今回も、その枠組みで考えた方がいい。

昨日のニュース、ロシアがWTO加盟に関して、米国の支援に対して感謝、TPPに関する米国の中国への姿勢、これらを考え合わせると、大枠は、中国を意識した、アジア、グローバルバランス、ということだろう。


かつては、中国と日本のバランスをアジアでとれるようにすることが、米国のグローバルリーダーとしての立場を守ることになる、と言うことだったが、今や、アジアでのバランスが崩れるどころか、消費地パワーを背景に、中国は、経済においても、世界で最も影響力のある国になってしまった。これでは、バランスが大きく崩れる。

したがって、米国としては、中国が仮に自由貿易グループに入ってくるにしても、それまでに立場を固めておきたい、ということで、日本が先に入った方が、戦略的には望ましい。

かつてAPECほど形式だけの組織はない、と無視されていたのが、俄然米国がアジアでリーダーシップをとろうと、唯一の足がかりとしてプレイアップしてきたのが近年の動きだ。

だから、日本も、この感覚を持つべきだ。

米国と中国のバランス、と言うことだが、現時点で見ると、中国からはかなり押し込まれてしまい、また外交能力において、中国に圧倒的に劣っているため、ここは、米国の枠組みに追随しつつ、自己利害を鋭敏に察知し、丁寧に細かく、加点し、守るべきところは目立たないように守る、という戦術(戦略を立てられる立場にない)で行くべきだろう。

それには、TPPの反対は、今後、交渉するときに、国内的に強い反対があるので、ということで、多少の例外措置などを引き出すのにうまく利用し、今後は、強くTPPを推進していく立場をとるべきだろう。

冷静に地味な対応を今後は期待したいが、野田政権は、それを理解していると思う。