東京電力に関する第三者委員会報告を読む(2)

澤 昭裕

「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の報告書は、東電の調達行為などに見られる様々な課題を指摘して合理化を促しているが、その中には、他の電力会社への水平展開が予想される内容も含まれている。


例えば、電力会社ごとに独自のものとなっている機材の仕様の統一、同じような業務を担っている関係会社の集約等は、これを機に精力的に取り組みが進められればよい。電気料金の値上げが差し迫った課題になっている電力各社としては、これまでのように各地方の「殿様」気分でいるわけにはいかないだろう。自ら合理化努力を示す必要がある。

こうした対策に加えて、東電エリアでは、福島原子力発電所の穴埋めのために、新たに供給力を確保する必要があるが、同報告では供給力調達にあたり、IPP(独立系発電事業者)を活用することを提案している。東電は当面、設備投資のための資金調達において困難な状況が続くことが想定されるので、新たなIPPが効率的な電源を供給できるのであれば、それを積極的に活用することは妥当な方策だ。

他方、IPP入札を全電力会社に義務付けることまで必要かどうかは、慎重な検討が必要だ。義務付けとは、今後電力会社が新たな火力発電所を建設する場合に、自社電源とIPPで競争入札を行うよう求め、自社電源が落札した場合のみ、電力会社に電源の建設を認めるというものである。より安い電源の調達による電気料金の上昇抑制や電力会社に対する競争意識の植え付けを狙ったものだが、それぞれ注意点がある。

第一に、電力会社は落札したIPPとは15年程度の長期契約を締結することになるが、落札段階で経済的であっても、15年もの長期の契約期間では、その期間全体を通じて経済性を維持できるとは限らないことだ。実際、この第三者委員会報告にも、東電が締結している他社との電力購入契約の状況が記載されているが、かつての入札で落札し契約したIPPのかなりの部分が、燃料価格の変動によって今となっては高コストの電源となってしまっている。自社の電源であれば、このような状況になれば当該電源の稼働を極力絞って、他のもっと安い電源を使うのだが、IPPの場合は、契約で稼働率の下限が決められるのが通常であるので、そうはいかない。長期にわたるリスクを、電力会社が自らの判断で負うのであれば、料金値上げにつながらないようにするのは電力会社の責任になるが、もし義務付けるとなると、そのリスクを行政も負担することになるのがスジだ。しかし、義務付け論には、そうした考慮がなされているようには見えない。

第二に、電力会社に競争意識を植え付けるのが目的であれば、卸市場ではなく、小売市場の方が重要である。小売市場の6割超は自由化しているわけだから、効率的な電源を建設できるIPPであれば、小売市場で勝負することもできるわけで、PPSになるよう誘導する方が電力会社に競争を意識させることになるのではないか。IPP入札は、逆に電力会社が効率的な電源を囲い込んでしまうことになる危険もある。仮に、IPP入札制度の目的が、小売自由化の対象となっていない家庭用需要家の料金を下げるためだと言うならば、小売の全面自由化も政府のエネルギー環境会議のアジェンダに載っているわけだから、そちらの方で検討する方がよい。IPP入札制度導入は、ツールであって目的ではないので、自由化議論が偏向してしまいかねない。

澤 昭裕
(NPO法人)国際環境経済研究所所長