イソップ物語からギリシャ問題を読み解く

山口 巌

ギリシャは海運、観光程度の産業しかない欧州の小国である。従って、一般の日本人のギリシャに対して持つイメージと言えば、ギリシャ神話とエーゲ海の美しい島々と言う程度か?

所が、その小国ギリシャの債務問題が世界を震撼させている。


先週は、ギリシャ発の欧州債務危機を嫌気して、NYダウは金融株主導で大きく下げて終わった。 東京株式市場でも主力銘柄に年初来安値更新が相次ぎ、日経平均は一時年初来安値を下回った。

今週もギリシャが、融資は欲しいが、要求されている財政緊縮策では景気回復が阻害されるとして駄々を捏ねるだろうから先行きは視界不良と言う他ない。

具合が悪いのはギリシャギリシャ危機が近隣国に飛び火し、アイルランド、ポルトガル、イタリアに次いでスペインも利回りが危機的ラインとされる7%突破が目前となっている事だ。結果、本来EUをドイツと共に背負って立つべきフランスでもジワジワと利回りが上昇している。

正に、小国ギリシャが世界経済を世界同時不況の崖っぷちに追い詰めていると言う所である。

それではギリシャ問題の実態とは何だろうか?

簡単に言ってしまえば、ギリシャで2,600年前に書かれたイソップ物語の代表作、アリとキリギリスと考えて良いと思う。勿論、アリがドイツでキリギリスはギリシャである。

夏の間、アリたちは冬の間の食料をためるために働き続け、キリギリスは歌を歌って遊び、働かない。やがて冬が来て、キリギリスは食べ物を探すが見つからず、アリたちに頼んで、食べ物を分けてもらおうとするが、「夏には歌っていたんだから、冬には踊ったらどうだ?」と断られ、キリギリスは餓死する。

なお、それでは残酷だというので、アリが食べ物を恵み「私は、夏にせっせと働いていた時、あなたに笑われたアリですよ。あなたは遊び呆けて何のそなえもしなかったから、こうなったのです」とキリギリスに告げる話などに改変される場合もある。このように食べ物を分けてあげるという改変は古くからあるが、最も有名なものは1934年にシリー・シンフォニーシリーズの一つでウォルト・ディズニー制作の短編映画であり、アリが食べ物を分けてあげる代わりにキリギリスがバイオリンを演奏するという結末になっている

アリが恵む食べ物とは、今後ギリシャ国債の買い取りを引き受ける事に成るECBへの資金供与であったり、ギリシャへの借金棒引きで毀損した銀行への資本注入の為のEFSF債券引き受けとなる。

ギリシャ問題をアリとキリギリスで説明する事に違和感持たれる方も当然居られるだろう。捕捉説明すると下記の様になる。

大事な点は、ユーロの仕組み自体がそもそも間違っていると言う事である。仮にギリシャが独立した通貨(ドラクマ)を持ち、自国で自由に金融政策を取る事が可能なら全く違った展開になったと言う事である。

景気が低迷すれば当然税収が減少し、結果財政が悪化する。これに対し、大幅な金融緩和を断行し併せ中央銀行が金利を下げれば通貨(ドラクマ)は切り下げられる。これに伴い輸出は活況となり、観光客も増加するので景気が良くなり税収も増え結果財政が改善する事になる。

しかしながらユーロに留まる限り、ギリシャに取って明らかに割高な通貨(ユーロ)と、相変わらずインフレ警戒型の金融政策に両手両足を縛られ、結果緊縮財政を実行するしか手段が残されていない。

これは日本がこの所ずっと経験している通り、財政赤字を減らそうと緊縮財政をとると、ますます景気が低迷してさらに財政赤字が膨らむという負のスパイラルそのものである。

さて、今後ギリシャの行く末である。

ディズニー制作の短編映画の如くアリが食べ物を分けてあげる代わりにキリギリスがバイオリンを演奏するという大団円なのか、はたまた初期の物語の如く、アリから、「夏には歌っていたんだから、冬には踊ったらどうだ?」と断られ、キリギリスは餓死する、ギリシャ悲劇の実演になるかである。

私は後者の展開を予想している。但し、餓死以前に飢えた市民による暴動が発生する筈だ。その時、ギリシャ政府は治安維持の名目で市民に銃口を向けるのかどうかの厳しい選択を迫られる事になる。正に民主主義誕生の国で民主主義とは?が試される事になる。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役