「想定外」か「想定の甘さ」か:10年間で利払い費は倍増する

小黒 一正

あと2カ月で、東日本大震災から一年が経つ。マグニチュード9.0に及ぶ巨大地震、そして、10m超の大津波は想像を絶する大惨事をもたらした。それは放射能を撒き散らす原発事故も引き起こし、「想定外」という言葉がメディアを駆け巡った。

だが、人間の脳は「想定外」の事柄は「想定」できないはずである。「最大の災害は自ら招くものである」というジャン・ジャック・ ルソー(1712-78年)の格言とも関係するが、それは「想定の甘さ」がもたらす人災といっても過言ではない。

そして、もう一つの人災が近づいている。それは財政のマグマである。長期金利は1%前後だから、日本財政は大丈夫との「想定の甘さ」が広がっているが、利払い費の推移をみる限り、現実は厳しい。


利払い費の推移については、以前のコラム「膨らむ政府債務、金利低下ボーナスの終焉か」や拙著「日本破綻を防ぐ2つのプラン」(日経プレミアシリーズ)でも指摘した。

しかし、以下の図表のとおり、日本総研(2011)の推計によると、現在のような低金利1%が継続しても、国債の利払い費はこれから増加ペースを強め、約10年間で利払い費は倍増してしまう。

図表では、財務省(2011)「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」(以下「仮定計算」という)との比較を行っている。「仮定計算」では、【ケース1】「試算1」(+1.5%の低成長シナリオ)と【ケース2】「試算2」(+3.0%の成長シナリオ)の2つのケースが分析されているものの、どちらも金利2%(=10年国債の利回り)を想定しているのみである。

そこで、日本総研(2011)は、感応度分析として、この金利が変化した場合の利払い費を推計している。具体的には、【ケース3】「仮定計算」の「試算1」(+1.5%の低成長シナリオ)で金利1.0%の状態が平成31年度まで一貫して継続するケースと、【ケース4】「試算2」(+3.0%の成長シナリオ)で金利3.0%の状態が平成31年度まで一貫して継続するケースの2つである。

この結果によると、最も甘い【ケース3】を仮定しても、平成21年度に約9兆円であった利払い費は、平成31年度までの10年間で17.3兆円に達すると推計している。つまり、金利がいまのように1%前後で推移しても、利払い費は倍増する。なお、平成31年度における【ケース1】、【ケース2】、【ケース4】の利払い費は、もっと衝撃的であり、それぞれ19.4兆円、23.2兆円、24.3兆円である。

以上は十分に「想定範囲以内」のシナリオであり、このような利払い費の増加に加えて、若い世代や将来世代へのツケの先送りである財政赤字や、毎年1兆円以上のスピードで膨張する社会保障関係費(年金・医療・介護)が財政を圧迫していく。もはや財政が限界に近づきつつあることは明らかであり、財政・社会保障の抜本改革(社会保障予算の削減vs増税)が不可欠である。

危機の多くは人災であり、現実から目をそらすような「想定の甘さ」によって、近い将来、財政マタ-でも「想定外」という事態を引き起こしてはならない。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)

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