中小企業金融円滑化法の再延長が中小企業の収益力をさらに低める

原 悟克

27日、金融庁から中小企業金融円滑化法(以下「円滑化法」という)の再延長が発表された。金融庁は「最終延長」「今回に限り延長」という表現を用いてはいるが、円滑化法は平成22年12月の施行当時から、延長の議論などは存在しない時限措置だったはずだ。これらの文脈から推測すれば、来年の同時期、円滑化法再々延長の議論がなされていても何ら不思議はない。現在の民主党連立政権のレベルからいえば妥当な結論とも言えようが、粉飾決算で黒字化しているものを加えれば赤字が8割とも9割ともいわれ、もとより国際比較して著しく低い我が国の中小企業の収益力が本来は市場から淘汰されるべき「ゾンビ企業」として生き残り、自社の資金繰りのために、場合によっては採算度外視の供給を市場に続けることにより、健全な企業が本来得ることが出来た収益までを蝕む現状は看過できない。


円滑化法の実態に関しては、拙ブログで数回にわたって解説してきたが、そこにはもちろん中小企業支援などという視座は存在せず、連立与党によるポピュリズムと、中小企業融資への保証残高が約35兆円(平成23年10月末)にものぼる信用保証協会に対する信用保険制度を担う日本政策金融公庫の赤字を補填する予算の先送りという目的しか存在しない。

さて、今回の円滑化法延長にともなう金融庁の発表をあらてめて見てみる(抜粋)。

このような点を勘案すると、金融規律の確保(健全性の確保・モラルハザード防止)のための施策を講じる一方、金融機関によるコンサルティング機能の一層の発揮を促すとともに、中小企業者等の真の意味での経営改善につながる支援を強力に押し進めていく(「出口戦略」)必要があります。
このためには、外部機関や関係者の協力も得つつ、検査・監督上の対応も含め、総合的な出口戦略を講じることにより、中小企業者等の事業再生等に向けた支援に軸足を移していかなければなりません。一方で、そうした移行は円滑に進めていく(「ソフトランディング」)必要があるため、現行の円滑化法を今回に限り25年3月末まで再延長することが適切と判断いたしました。

ところで、円滑化法による返済猶予を受けている債権の件数を金融機関の業態別に見ると、今年9月末現在で信用金庫が約79万件、地方銀行が約75万件、大手行が約31万件と、地域金融機関が圧倒的多数を占めている。つまり、今回の円滑化法再延長の核心は、「地域金融機関がコンサルティング機能を果たし、経営に行き詰まった中小企業をソフトランディングさせることが出来るか否か」にあると言っても過言ではない(金融庁が言う「金融機関のコンサルティング機能」については、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針」を参照)。しかし、人材やノウハウの観点から現実を冷静に見た場合に、ごく一部の大手地域金融機関を除いては、経験則上、一朝一夕に地域金融機関において金庫機能以上の役割が果たされるとは考えにくい。

円滑化法により債務者区分を正常債権化された隠れ不良債権を大量に抱えつつ、自己資本比率を充実させたい各金融機関にとっては、今後1年余、円滑化法の「最終延長」という内容に、従来以上に不良債権処理のインセンティブが高まるだろう。債権者として策を失った地域金融機関が採りうる手段はそれほど多くなく、強硬な回収または債権の売却くらいのものだ。しかし、前者は直接に倒産のトリガーを引く場合もあり、また、自行の顧客の連鎖倒産なども十分に予想されるため、(もちろん、各金融機関のキャラクターにもよるが)地域密着の金融機関としては、これを躊躇する場合が多い。結果として、前回の拙記事「中小企業金融円滑化法期限切れ後におけるサービサーの動向について」の中で述べたとおり、いわゆるプロパー融資に関しては、消去法でサービサーへの債権売却が急増すると思われる。これにより、かりに中小企業の倒産が相次ぐとしても、正常な市場システムの作用が再稼働しただけなので、致し方ないと考えるべきだろう。問題は、平成21年12月の円滑化法施行から実際の期限切れまでに起こるべきだった倒産が一気に起こることと、倒産する企業の経営者および従業員に対するセーフティーネットが整備されていないことだ。かと言って、将来数年のうちにこれらの制度が整備される見通しもなく、それまでの間、円滑化法を延長するなどという議論もあり得ないのだから、何が起ころうと甘受するほかないだろう。そして、当然だが円滑化法による返済猶予を受けている個別の企業が事業継続のために採りうる手段は、事業の収益化のみであることは論を待たない。

(原 悟克/アゴラ執筆メンバー)