サイエンス2.0

池田 信夫

クルーグマンのブログ経由で知ったが、ResearchGateというウェブサイトが注目されているそうだ。これは専門的な論文を投稿するSNSで、研究者だけにユーザーを限定し、その論文を互いに査読するものだ。NYタイムズもいうように、これはレフェリーの代わりに「多くの目」で論文をチェックするサイエンス2.0である。


自然科学の世界では、一刻でも早く成果を公表しないと業績にならないので、昔からネットニュースは速報の場になっていたし、arXivはディスカッションペーパーのプラットフォームである。2006年には、PerelmanがarXivに投稿したDPがフィールズ賞の授賞対象になった(本人は拒否)。

学術誌の査読は、一部の一流誌以外はちゃんと読んでいない。人数は少なく報酬はわずかだし、同業者の論文にいちゃもんをつけて落としたり、修正したレフェリーが「私を共著者に入れろ」と要求する場合もあるという。データを捏造した論文がScienceやNatureに載ったこともある。

経済学の場合、Econometricaなどは論文を投稿してから掲載されるまでに最大3年ぐらいかかるので、現実に即応できない。革新的な論文が掲載を拒否されることも多く、Black-ScholesやLucasやAkerlofのノーベル賞受賞論文は、何回も学会誌に掲載を拒否された。

ケインズもいったように経済学はジャーナリズムであり、時事的なパンフレットで政策に影響を与えるのが本業だから、学会誌にこだわる必要はない。クルーグマンもよくブログを引用して議論しているが、日本では経済学者のブログ自体が少なく、この点でも大きく遅れをとっている。研究の効率でも政策へのインパクトでも、アメリカにますます引き離されるおそれが強い。

アゴラはもともとウェブ上の学問的なプラットフォームにもなるように作ったもので、DPの投稿も受け付けている。GEPRでも投稿を募集しているので、長い論文もどうぞ。この記事のように、個人ブログとの同時投稿でもOK。