円高を国益にしていた日本人 --- 伊東 良平

アゴラ編集部

2月8日の日経新聞に、主要上場企業の今年3月末の業績予想が掲載された。電機メーカーの不振が目立つ一方、総合商社が多額の利益を稼ぎ出し、完全復活している様子が分かる。


以前「円高を国益にできない日本人」という記事を書いたが、この記事は事実ではなかったとお詫びしなければならないようだ。日本企業は円高を背景に多額の利益を稼ぎ出していたのだ。日本企業は全体としては円高に苦しんではおらず、円高の強みを十分活かしている。

今回の決算予想で純利益上位にランクしている企業は、自国通貨高の何たるかを理解している企業ばかりだ、積極的に海外展開し、企業買収や資源の権益獲得などで利益を生み出している。奇しくも同日、三菱商事とインドのIT企業との提携が報じられている。自国通貨高を背景に、海外の割安な仕入先を確保して、国内外で市場を拡大していると言えるのではないか。商社以外には通信会社の業績が好調だ。iPhoneやAndroidの製品・技術など、海外から高品質の”仕入”を行い、国内の盤石な販路に提供することで、利益を稼ぎ出している。

円高で日本が「苦しんでいる」のは、メーカーが日本企業を代表しているという妄想か、デフレの原因が円高にあるとする、生産者サイドしか見ない単視眼による勘違いのようだ。

考えてみれば、日本の小売店には米・豪や中国産の食品が多く並んでいるが、これらの国の農家が日本に直接輸出などできるはずがない。輸入食品の販売拡大で利益を得ているのは日本の商社であり、外国人ではない。海外から穀物や原料を獲得してくる商社がなければ、日本経済は成り立たないであろう。日本の食糧自給率の低下は、日本の農協と日本の商社の販売競争で農協が負けた結果であり、農林水産省が作り出している実体のない不安なのかもしれない。

また、円高になると製品や部品を輸出又は輸出企業の納品している中小企業が困るという報道があるが、そもそも円高が本質的な理由であるか疑わしい面もある。中小工場の不振は、技術革新に取り残されていることが理由で、円高でなくても国内での競争に敗れているのかもしれない。本当に必要かつ競争力の高い技術なら、新興国は提供できず、価格が高くなっても日本から仕入れるであろう。新興国との競争に敗れているのは、新興国の技術水準が上がったからであって、為替の影響ではないのかもしれない。

それでも、円高が悪と考えるのは、恐らく二つの思考と印象によるものだろう。

一つは短期の株式市場の影響。円高になれば外国人投資家が利食い売りをするので、つられて日本の投資家も売りをかけてしまい、株価が下落しやすい。ローソク足の動きばかりを見ている株屋さんからすれば、円高は「売り」のサインなのだろう。

もう一つは、未だ日本に純然と存在する「士農工商」のヒエラルキーではないか。モノづくり(工業)は尊く、カネづくり(商業)は賎しい、という感覚では、日本経済が強くなるはずがない。

円高は結果であり、原因ではない。結果をどう考えどう対処するか。やはり発想を転換しよう。

伊東 良平
不動産コンサルタント