2011年3月の東日本大震災で起こった原発事故。その後の政府の対応や、さまざまなメディアでの報道により、人々は混乱の極地に陥れられた。なにが本当で、なにがデマなのかわからない…そんな状況で人々が安全を確認し、安心できるのは至難のワザだ。それらを時間的な経緯を含め、客観的な数値で確認し説明したのが本書である。
そして、この事故で二つの神話が崩壊したと指摘する。つまり“安全神話”と“危険神話”だ。「最悪の事態でも炉心溶融は起こらない」という安全神話。「炉心溶融が起こると数万人が死ぬ」という危険神話。「私は原発が安全だとも、推進すべきだとも主張していない。原発は危険だが、そのリスクを他の発癌物質や環境汚染と同じ基準で比較し、費用対効果を最適化すべきだと言っているだけである」との著者の冷静な分析は今後のエネルギー政策にも言及している。
目次
第1章 安全神話と危険神話
原子炉で何が起きたのか
福島第一原発の欠陥
混乱した政府の初期対応
「メルトダウン」は起こったのか
被害のほとんどは「風評」
チェルノブイリ事故は大災害だったのか
最大の被害をもたらしたのは放射能ではない
原子力につきまとう原爆の影
危険なのは石炭火力
第2章 放射能はどこまで恐いのか
放射線はなぜ危険なのか
確定的影響と確率的影響
放射線の影響には閾値があるか
世紀最大の科学的スキャンダル
放射能はタバコの煙
携帯電話は放射能より危険か
合理的な線量基準とは
原子力は特別か
除染は必要なのか
核廃棄物は政治問題
第3章 危険神話はなぜ生まれたのか
朝日新聞の「原発ゼロ」キャンペーン
「プロメテウスの罠」の被害妄想
東條英機の論理
NHKの捏造した字幕
第4章 「空気」の支配
公害病の虚実
暴走する「正義」
武田邦彦氏の売り歩く放射能デマ
日弁連の「異端審問」
ニセ科学者を輸入した自由報道協会
第5章 「リスクゼロ」を求める人々
リスク評価のバイアス
ハザードとリスク
「脱原発」という呪文
福島みずほ症候群
さようなら大江健三郎
原発事故は「文明災」か
「文科系知識人」の終末論
第6章 「自然エネルギー」の幻想
再生可能エネルギーは原発の代わりになるのか
再生エネ法は電力自由化の道を閉ざす
スマートグリッドの可能性
ガラパゴス化するスマートメーター
第7章 電力自由化への道
独占から競争へ
発送電の分離は可能か
電力のインターネット
小口電力の自由化
東電「国有化」のまやかし
原発事故の損害賠償に関する公正な処理を
第8章 合理的なエネルギー戦略
エネルギーのポートフォリオ
原子力は安いのか
事故のリスクと経済性
天然ガスの黄金時代
原子炉のイノベーション