先週の週刊ダイヤモンド(02/11)で野口悠紀雄先生が「巨額の財政赤字はなぜ問題なのか?」という記事を書いています。この記事で,財政の問題の他にマクロ経済的には「過剰消費」が問題と指摘しています。
投資需要の低迷による「過小投資」,あるいは低金利による「過剰投資」は議論になりますが,過剰消費は(私にとって)盲点でした。非常に重要だと思いましたので,紹介しつつ考えてみます。結論として,社会保障制度(特に年金)や財政赤字が今後のマクロの成長阻害要因だと考えます。
まず,これだけデフレだと言われる中で,消費が過剰だというのが信じられないという人のために,事実を確認します。ポイントは本来あるべき水準より消費が多いかということです。例えば米国のサブプライムローンでは,低所得者がその所得にみあう以上の家を購入したことが問題でした。同じようなことが日本全体で起こっているのかということです。
下の図はGDPと,その構成要素のうち消費(民間最終消費支出+政府最終消費支出)と投資(民間企業設備+公的固定資本形成)の推移を示したものです。左の図が名目値で,右の図が実質値です。
GDPは名目ではほとんど成長していませんが,実質では伸びています。そしてその伸びはほぼ消費の増加で説明されることがわかります。消費は名目でもほとんど減っていません。
さて,では何が問題でしょうか。
野口先生はさらに,2009年度以降,資本減耗が資本形成を上回っていて,資本ストックが減少しているため将来の生産力は低下すると指摘しています。経済学では生産を技術,労働,資本の要素で説明します。労働人口は今後減少していくので,それに加えて資本ストックも減少しているとすれば,相当の技術進歩がない限り,今後も日本経済は超低成長を続けることが予想されます。
しかも問題は,これが不適切な再分配政策(年金等)から生じているということです。
平均的に賃金が減少している中で,なぜ消費が増えているのでしょうか。
簡単に書くと,国が借金を増やす一方で,それを財源として退職世代が(年金で)消費支出を維持しているからです。もし,若年世代が将来の増税をみこして消費を減らしていれば,中立命題が成立しますがそうはなっていません。所得が減っても消費は減らせない所得層の世帯が多いからか,政府の借金を人ごとに感じるからかでしょう。
日本経済全体で借金をして消費を維持(実質的には増加)しているということです。グラフを見ると過剰消費は30~50兆円規模と予想され,おおむね政府の財政赤字あるいは社会保障給付費の公費負担と同水準です。
年金制度を改革しつつ,消費税等による増税で消費を抑制する。消費抑制はGDPにマイナス要因ですが,その一方で(公共投資でもいいので)投資が増えるようにすればGDPは維持できる。さらに,将来の生産力維持にもなる。
このままでは,私も低成長がさらに長期化してしまうと考えます。
岡山大学経済学部・准教授
釣雅雄(つりまさお)