オリンパス事件7人逮捕と「検察の正義」 --- 山口利昭

アゴラ編集部

本日(2月16日)、オリンパス巨額損失飛ばし事件について、元経営者、指南役等合計7名が逮捕され、いよいよ事件が「事後規制」の領域(民事責任、刑事責任、課徴金等の制裁的意味を持つ行政処分の領域)に入ってきました。

ほかのところでも少し述べましたが、この「7名」という逮捕者の数を予想されていた方はいらっしゃるのでしょうか?マスコミや多くの方のブログを含め、N氏、Y氏が元経営陣とともに身柄拘束される、という予測を聞いたことがありません(もし、事前に7名逮捕、という予測を立てていた方がいらっしゃいましたら、元ネタを含めてお教えいただければ幸いです)。どこで伺っても、みなさん「まあ、刑事問題は首謀した3名までであり、組織ぐるみではないということで上場は維持されて、あとは銀行主導で幕引きでは」といったものでした。昨年12月に公表された訂正内部統制報告書においても、わずかA4一枚に「監査役会、取締役会が機能していなかったため、全社的内部統制に重要な欠陥があった」で終わり。とくに問題の核心に迫るような点は見当たりませんでした。


先週から、日本監査役協会講師の全国ツアーが始まりまして、関西の監査役の皆様の前では申し上げましたが、これからオリンパス事件は大きく動き出しますし、これまで判明しなかった事実がいよいよ浮上してくる、と予想しております。なぜなら、これまでは事前規制の世界であり、「予定調和」的なストーリーが「大きな力」によって展開されてきたのでありますが、これから始まる事後規制の世界では、その「大きな力」によっても抗いがたい別の哲学が機能するからであります。

そのひとつが検察権力であり、もうひとつが司法権力(株主代表訴訟)だと認識しております。言うまでもなく、検察がもつ「正義の哲学」は、およそ他の権力によって押しつぶされることはありません。ご自身方特有の正義思想に基づいて動くわけでして、このたびも証券取引等監視委員会や警視庁との合同ではありますが、「共謀共同正犯」理論を駆使して、「東理ホールディングス元役員無罪事件の借りを返す」執念で動いているのではないか、その表れが本日の7名逮捕ではないか、と推測いたします。

また、事後規制の典型である株主代表訴訟においても、主導権を握るのは少数株主(オンブズマン?)であり、裁判官であります。予定調和の全くない世界であり、「まあ、これくらいで和解して一件落着」といった大人の対応が許容されるものではありません。裁判において、どのような資料や証言が飛び出してくるのか、まだまだこれからでありますが、関係者にとっては不安な毎日が続くものと思われます。

本日、英国においてウッドフォード元社長の記者会見があり、「歴史的な日になったが、この事件にはまだまだ解明できていないところがある」と述べておられました。しかし、私からするならば、このウッドフォード氏がなぜ25人抜きで伝統あるオリンパス社のCEOとなったのか、これが一番解明されるべき問題であり、これまで第三者委員会報告書でも、取締役責任調査委員会報告書でも、そしてウッドフォード氏ご自身の口からも明らかにされておりません。「この会社は変わらねばならない。だからこそ欧州法人の代表である君にCEOになってもらいたい」とK氏から指名を受けた・・・・・・・、という理由だけでは誰も納得できないはずです。

こういった私個人の疑問も含めて、今後の事後規制の世界において、オリンパス事件の闇の部分が解明されていくことを切に希望いたします。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年2月17日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。