現在の日本の年金は賦課方式と呼ばれ、今の年金生活者のもらう年金を今の現役世代が払うものだ。これは人口が増えているときはネズミ講のように負担をどんどん先送りして受給者が得するが、人口が減ると行き詰まる。上の図のように、今は現役世代3人で1人の年金生活者を支えているので、300万円の年金を現役世代が100万円ずつ負担すればいいが、2050年には1人で1人を支えるので、現役の負担は300万円になってしまう。
これに対して、経済学者が提案しているのは積立方式である。これは普通の貯金と同じように若いとき積み立てた年金を年を取ってから取り崩すもので、原理上、世代間の不公平は起こりえない。しかし国会では与野党とも、まったくこれには言及せず、厚労省は検討さえ拒否している。
その理由は、二重の負担と呼ばれる問題が発生するからだ。もし今年から積立方式に変えると、今の受給者は何も積み立てていないので、政府が彼らに払う暗黙の債務(約750兆円)が発生する。これは現役世代の負担になるが、彼らは自分の年金も積み立てなければならないので、過渡的には二重に年金保険料を払わされる、という問題である。
・・・と私は思っていたが、小黒一正氏によれば、世代間の対立は制度のチューニングで緩和できるという。次の図のように暗黙の債務を長期間かけて消費税で償還すればいいのだ。現在の給付水準を維持しても、債務を100年で償還すれば超過負担は年間7.5兆円(消費税3%)程度ですむ。もちろん支給額を維持すると全体としては大きな負担増になるので、年金カットや支給年齢の引き上げが望ましいが、それは不可欠ではない。
つまり問題を現在の年金受給者と現役世代だけで解決しようとすると大きな超過負担が発生するが、100年ぐらいかけてゆっくり積立方式に移行すれば、政治的な対立は緩和できるのだ。何より大事なことは、維持不可能な賦課方式を積立方式に変更するという方針を明示することで年金制度への信頼が回復し、一般会計からの補填で財政を悪化させるリスクも減ることだ。
こんな簡単な話を政治家も官僚もタブーにしているのは、政治的な利害というよりも「積立方式に移行するのは不可能だ」と誤解しているためではないか。ニコ生のアンケートでも、視聴者の9割が「積立方式にしてほしい」と答えた。積立方式を掲げている政党は、今のところ大阪維新の会だけなので、この点でも応援したい。
訂正:小黒氏に指摘されたが、彼の案は交付国債を発行するのではなく、それと実質的に同じことを修正賦課方式のチューニングで行なうもの。