iPadの進化に隠されたアップルの戦略

田代 真人

ipad2012昨日、アップルが発表した“The New iPad”は、予想通りRetinaDisplay(レチーナ・ディスプレイ)を備えたものになった。このディスプレーはアップルのサイトで以下のように紹介されている。

Retinaディスプレイは、2,048×1,536という解像度を持ち、彩度は44パーセント向上。これまでと同じ9.7インチの画面に、310万という驚異的な数のピクセルを載せました。この数はiPad 2の4倍。ハイビジョンテレビと比べても100万も多いことになります。ピクセル密度があまりに高いので、通常の距離から見ている場合、あなたの目はその一つひとつを識別することはできません。ピクセルが見えないぶん、写真も、記事も、ゲームも、画面全体がこれまでにない美しさで目に飛び込んできます。


このことによって、我々はよりきれいな画像で動画や写真を見ることができる。そして、それだけの高解像度の動画などを駆動させるために、CPUも格段に性能アップ! クアッドコアグラフィックスを搭載したA5Xチップを開発して搭載している。また、これらの動画や写真は当然容量も大きくなるのでそれらをネットからスムーズにダウンロードさせるために携帯回線も一歩上を行く4Gに対応。これは最近サービスが始まったLTE(Long Term Evolution)という方式のもので下り速さ75Mbpsと、いままでの約2倍の速さとなっている。

さて、これらの機能アップは、我々とアップルになにをもたらすのだろうか。

もちろん、我々はきれいな動画や画像をよりいっそう快適な気分で楽しめることになる。そして……この点が重要なのだが、我々ユーザーのなかには必ずやそれらコンテンツを享受するだけに飽き足らず、実際に作ってみたくなるものも出てくるだろう。というか、きっと出てくる。ニコ動における初音ミクの世界的大ヒットを見てみても、それはわかるだろう。

そして、そのことはつまり、高性能で使いやすい、コンテンツを作りやすいパソコンが必要になってくるわけだ。いままでの4倍の高精度の動画や画像を素早く制作・編集できるパソコンが求められる。そうこれがまたアップルにとってのパソコン・ビジネスをより大きく花咲かせることになるのだ。

もちろんwindowsマシンにとっても追い風だろう。ただ、アップルはマルティメディアの電子書籍が制作できるiBooks Authorを無料で配っているように、より簡単にそれらコンテンツを作ることができるMac用アプリケーションも同時に開発している。これはMacintoshのOSX上でしか動かない。そう。iPadが高性能になればなるほど、多くのクリエイターがそのiPadに自分の作品を載せたくなる。そのために高性能のMacintoshを買い求める。アップルは決してすべてのリソースをiPhone&iPadへシフトしているわけではなく「コンテンツの“体験”はiPhone&iPadに、“制作”はMacintoshへ」という戦略を鮮明に見せてくれるのだ。

田代真人(編集者・マイ・カウンセラー代表)