通称「ボダ」、境界性パーソナリティ障害者のことだ。もともとは精神病と神経症の合間という意味だったが、いまはプライバシー境界崩壊者のニュアンスが強い。ボダは、精神疾患として個別例に即して医療的に判定されるべきものだが、哲学的な意味では、現代社会の病として、はるかに広く世の中に蔓延している。ボダが恐ろしいのは、他の精神疾患のような派手なエピソードがあるわけではなく、外見ではまったくわからないところだ。ただ、彼らが標的(通称「タゲ」)にした人物にだけ、執拗に喰い込んでいき、その内面を吸い尽くしてしまう。ストーカーやセクハラ・パワハラ、結婚詐欺、宗教洗脳をはじめとして、芸能醜聞や社会事件でも、このボダが元凶となっていると思われる問題が近年はあまりに多い。
最初は、あなたがその人にしてあげた、ごく当たり前の、ほんのちょっとした親切にすぎない。だが、それが、彼らのトリガーとなってしまう。これでボダはあなたをダゲとしてロックオン。そして、ボダは、あなたが一人でゆっくりしているときに、いきなり壮絶な過去だの、重大な秘密だのの相談を持ちかけてくる。多くの場合、ボダは、恐るべき暴力的な異常人物に苦しめられており、アザやケガなどの証拠も見せてくる。あなたは、好奇心半分で、このウソだか本当だかわからない話を聞かされてしまうと、その自分の後ろめたさを打ち消すように、どうにか人として誠実なアドバイスをしようと努力するだろう。だが、これは、ボダがタゲを選び試す第一段階に過ぎない。
次には、なぜかボダは突然に危機的状況に陥り、あなたに緊急の救援を求めてくる。まったく知らない相手でもなし、話からすれば、これまた人として助けるのが当然と思えるから、あなたはボダのために奔走するにちがいない。そして、あなたは、いよいよボダの私生活の問題に引きずり込まれる。それだけではない。同時に、あなたの側の私生活の情報も、いつの間にかボダに吸い集められており、ボダは、あなたが断れないところを狙って土足で踏み込んでくる。深夜の長電話、自宅への押しかけ、そして、居座り。
この間、あなたはひそかに外堀を埋められ、手足の無い「芋虫」にされていっている。ボダは、あなたの親友を装い、あなたの友人知人に、あなたが言っていたという悪口をまき散らし、また逆に、あなたにも、あなたの友人知人が言っていたという悪口を吹き込んで、人間関係を分断し、ボタとだけの二者関係の孤島を築いていく。この段階にもなると、むしろあなたの方が危機状態にあるような錯覚に陥らされ、あなたの方からボダに助けを求めてしまうことになるだろう。このとき、ボダは、自分には特別な能力や人脈があるかのようなウソをついて、あなたを取り込もうとする。いずれにせよ、あなたは、もう自分が信頼できるのはボダしかいないとマインドコントロールされてしまう。
だが、もしあなたが自分でおかしいと気づき、少しでも距離をおこうものなら、ボダは、ようやくその本性を見せ、狂乱の様体を示す。あなたの話などいっさい聞くことなく、白目を剥いて一方的にあなたに罵詈雑言を浴びせ続け、あなたがボダに告白してしまったあなたが最も傷つく問題を蒸し返して責め立て、あなたが疲労困憊と神経衰弱で根負けするところまで追い込む。そして、性的な耽溺や薬物の濫用、突然の失踪などで、あなたを徹底的に引きずり回し、私が死んだらあなたのせいだ、と脅迫しながら自傷行為や自殺未遂を繰り返す。
ボダのあまりの行状を、あなたが他の人に言っても、誰にも理解されまい。ボダは、タゲ以外にはけっして本性を見せない。それどころか、あなたが自分から離れようとしていることを知ったボダは、むしろあなたより先に、あなたに近い人々のすべてに、あなたに関する深刻な相談を持ちかけ、次のタゲを物色している。そこではすでに、あなたこそが恐るべき暴力的な異常人物に仕立て上げられており、ボダの自傷によるアザやケガは、いまやあなたの暴力の証拠なのだ。
実際、ボダ本人も、つらいのだろう。ネグレクト(育児放棄)や家庭崩壊など、病因としてはいろいろな説が言われるが、いずれにしても、自我が確立しておらず、つねに情緒不安定で、存在しえない親に代わる絶対的庇護者を求めて世をさまよい続け、そのつど、本人は、相手に裏切られた、と、逆恨みだけを募らせる。しかし、こんな根深い屈折は、シロウトの半端な同情心程度で治癒できるような問題ではない。本人が自覚して専門医の門を叩かないかぎり、誰にも手には負えない。
新生活、新しい知人や友人には、大いに期待したい。だが、上司や部下、同僚、クラスメイト、御近所の人で、「ありがとう」「ごめんなさい」を言わない、時や場もわきまえずにベタベタと近寄ってくる、やたらプライベートな話に踏み込んでくる、人のことを激烈に批判する、深夜の電話や長文のメールなど、公私の区別がおかしいやつがいたら、要注意だ。タゲにロックオンされてからでは、あなたの逃げ場は無い。こいつはヤバい、と思ったら、絶対に二者だけでは会わない、話をしない。メールも、つねにCC(カーボンコピー)にして、問題の発生以前からやりとりを第三者にもオープンにしておく。
人間として冷たいようだが、問題が大きくならないうちに、あなたがしっかりと公私の一線を引いて、それ以上のことは見捨てるしか、あなた自身を守る道はない。それで多少の悪口は言いふらされるだろうが、深みに填まってからよりは、はるかにましだ。ボダの長い来歴の複雑で深刻な問題は、あなたの同情心程度では解決できない。それは、あなたが路上のホームレスを救えないのと同じこと。ボダは一種の精神的なホームレスであり、その底無しの愛情の飢餓感は、あなたの生活や人生まで破壊してしまう。
by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰博士
(大阪芸術大学哲学教授、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン)