スマートメーターのゼネコン構造

池田 信夫

昨夜のJBpressのスマートメーターについての記事には、早くもたくさんのコメントが専門家から来た。専門用語を避けたためにかえってわかりにくくなった点があるが、私の勘違いもあったようなので、補足しておく。


まず、スマートメーター制度検討会で決まった仕様が各社バラバラになることについては、関係者から次のような回答があった:

  1. 関西・中国・四国・沖縄の4社は最低料金制で、アンペアに応じて課金していないため、リアルタイムの電流を計測する機能は不要(関電のメーターにはない)。したがって最低料金制の会社とアンペア制の会社が同じスマメを使用することは、コスト面から得策でない。

  2. スマメでは一般的に、30分間ごとの消費電力量を測定してデータを通信回線で送る。その目的であるデマンドレスポンス(需要応答)は、30分ごとの電力量(を時間で割った電力)に基づいて行うため、電流・電圧・電力の瞬間値は不要。

まず1については、不要なモジュールがあっても、使わなければよい。全国で同じ半導体を使うコスト優位のほうがはるかに大きい。特に今後、国際標準化が進むと、多くの地域で使うモジュールをワンチップに入れた半導体が出てくるだろう。

2についても、電力会社には不要かも知れないが、HEMSをきめ細かく行なうにはリアルタイムの情報があったほうがいい。スマメは単なる電力計ではなく、家庭やオフィスのエネルギー管理の司令塔だから、取れる情報はすべて利用可能にし、ユーザーが選べばいいのだ。小池良次さんもレポートしているように、アメリカのAMIやMDMSは多くのモジュールの中からサービス業者が選ぶ仕様になっている。

エコーネット・ライトについては、経産省の官僚から「物理層は電力線でなくてもよい」というコメントがあった。これはおっしゃる通りだが、それならわざわざ特殊なエコーネットを使う必要はなく、AMIのようにイーサネットにデータを吐き、あとは通信業者や家電メーカーがやればいい。


ところが経産省の決めたHEMSの仕様では、上の図のようにエコーネットは家庭内の「Bルート」に限定され、インターネットとつながっていない。経産省はオープンな「Cルート」も考えているらしいが、電力会社が検針データを出さない。AMIではスマメの情報をすべて無線インターネットで共有し、携帯電話などから家電を制御できるばかりでなく、ガスや水道の検針データとも統合が進んでいる(左の写真が電力、右がガス)。


検針データなんて単純なものだから、電気もガスも水道も同じデータ形式にしてスマメから無線インターネットに飛ばし、それをユーザーが用途に応じて選んで使えばいいのだ。AMIはそうなっているので世界標準の技術も使えるし、日本の家電メーカーの技術が国際標準になる道も開ける。ところがエコーネットは(形式的にはISO規格だが)日本ローカルの日の丸標準なので、輸出もできない。

これは日本が携帯電話のPDCで失敗したのとまったく同じパターンである。要素技術はすぐれているのに、ドメスティックなオペレーターが独自標準のプラットフォームで囲い込むため、ハードウェアが世界に売れず、結局は競争に負けて海外規格を採用せざるをえなくなる。そういう失敗を何度くり返しても、このように同じゼネコン構造が出てくる。日本はおもしろい国である。