2000万人を突破した「LINE」ヒットの理由  村井愛子(@toriaezutorisan)

村井 愛子

アプリのリリースから、僅か256日で2千万DLを達成したメッセージングサービス「LINE」。実際に、私も友達と連絡を取る必需アプリとして使っています。TwitterやFacebookさえも2千万の普及までは1千日以上を要しているのですが、この大ヒットを支えたNHNとはいったいどういう組織なのでしょうか。


3月16日に行われたカンファレンス「OGC2012」にてNHN Japanのウェブサービス本部 執行役員/CSMO舛田淳氏が、LINE誕生から今に至るまでのエピソードを明かしてくれました。
その内容は、このニュース記事でも詳しく紹介されているので、少し視点を変えて大ヒットする怪物コンテンツを生み出すにはどうしたら良いか、果たして再現性があるものなのかを紐解いてみたいと思います。

まず、カンファレンスを聞いて浮かんできた「LINE」大ヒット最大の理由は

NHNの偉い人たちが、すごいイケてる

ということです。しかし、あまりに抽象的すぎるので、これをブレイクダウンしていきたいと思います。

1.正しいマーケティング
最近思うのですが、IT系コンシューマー向けサービスは、従来のマーケティングから少しづつ変わっていて、市場環境の把握という概況理解に加えてインサイト目線をミックスしていかなければならないと思います。
しかし、いまだに「この市場はこのくらい母数があるから10%取れれば何千万」みたいな概況だけの話をしている人が多いのです。この数年のスマフォ界隈の動きを見ていても、市場環境の枠組みがアメーバのように柔軟に形を変えすぎるので、市場環境の細かい分析は役に立たなくなってきている気がします。つまり、概況を踏まえた上でインサイトを行い「ユーザーに何が求められるのか」ということを、自分たちで考えることが重要になってくるかと。NHNの人たちが、何故メッセージングアプリを作ろうと思ったかに至る流れは先ほどの記事に書いてあります。

2.UXとUIを重点指標に置いている
これは私の私見ですが、会社の偉い人たちは各部署から集まる数字ばかりを見ているので、知らず知らずのうちに全体を俯瞰で見るマクロ目線グセがついて、ユーザーが実際にサービスに接触したらどういう体験が出来るのかというミクロ目線がないがしろにされているのではと思ったりします。

しかし、NHNは偉い人(というか話をされていた舛田氏)が、UXとUIが重点指標であることを理解されていました。普通は2011年の時点でメッセージングサービスをやろうと言っても「VIVERもあるし、カカオトークもあるし、スカイプもあるし・・・」と、競合の話になり参入を躊躇していたかもしれません。しかし、彼らは自社のUXやUIのセンスを以って挑めば、それらのサービスに対抗できる自信があったのだと思います。

これらの視点が欠けていると、アプリを起動するたびにIDやPASSを入力させるとかダメダメなことになります。UXに重点を置いているからこそ、電話番号によるSMS認証を用いればストレスなく知人と繋がれるというインターフェース構築に至っているのです。
(今書いてて思いましたが、iPhoneだって携帯電話のUXとUIにおけるイノベーションですよね。というか、Appleは常にUXとUIにおけるイノベーションを起こしてきたんですね。)

ちなみにUXやUIの素晴らしさは「数値」や「言語」で説明するのが非常に難しい。(iPhoneが目の前にないのに、素晴らしさを口頭だけで語っても伝わらない。)

決裁権を持っている人が「感覚で分かっている必要」があると思います。設計者がモックを用意して説明しても「伝わらないから、さらに資料用意して」みたいなことが結構あり得る気がしてます。この感覚が一発で伝わるかどうかで、プロダクトリリースのスピード感がだいぶ違ってくると思います。このへんは、サイバーの藤田社長のこのブログのように、決裁者もイケてるUXやUIのサービスにハマっておく必要があるのではないでしょうか。つまり、UXやUIの体験が“自分ごと化”していないと、判断がつかないと思うのです。

3.戦力を集中する
これが最重要で、最も難しい課題だと思います。LINEはNHNの最重要プロジェクトと位置付けられ、スタート時には社内からエース級の10名が召集されたと言います。そして、徐々にメンバーが増えていき、現在では兼務者も合わせて60名規模なのだとか。しかし、何か問題が起こった際には、

サブの業務は停止して、LINEに集中するように

というお達しが出ているそうです。戦力を優先順位順に割り振るという基本的な戦略ですが、大きい会社になってくるとこれが一番難しいのではないでしょうか。そもそも部署をまたいでエース級の人間を10名専属で集めるとか、大規模な組織体であれば3カ月待ってくれとかが、あり得るように思います。

ということで、以上がLINEが(というかNHNが手掛けるサービスが)爆発的に人気が出る主な背景なのではないかと思いました。戦略の基本原則をおさえているNHNという組織体は、きっとこれからも爆発的に普及するサービスを生み出し続けるのではと思います。

村井愛子(@toriaezutorisan)