維新の会が沖縄にもたらす「最高・最強のプレゼント」とは(上) --- 田原 健央

アゴラ編集部

前回の記事では道州制をやる理由について書きましたが、今回は少し毛色をかえ「維新の会が道州制などの点について今後何をしようとしており、それが沖縄にどうプラスの影響をもたらし得るのか」という点を解説します。


◆維新の会が今後何をしようとしているのか

まず、維新の会が今後やろうとしていることについては、同会ブレーンの上山信一教授が季刊誌『コトバ』2012年冬号に寄せた次の文章が参考になります。

“地元で自立的にやっている地域政党というのが肝なのです。私たちは大阪のことをひたすら突き詰めていく。すると結果的に日本国のシステムに風穴が開く。そこから全体が変わる。「私たちも大阪と同じやり方をしたい」とか、「規制緩和を全国でやれ」という声がヨソから出てくるでしょう。それが大阪にもプラスになる。大歓迎です。
 こうやって大阪維新や地方発の改革運動から中央政府も刺激を受ける。やがて地方自治法の大改正で分権化や道州制を考えざるを得なくなります。当然、総選挙の争点にもなる。すると郵政民営化と同じような大騒ぎになる。総選挙を二回ほどやっていくと、分権化、道州制の方向に行くに違いない。”
(詳しくは上山教授の「2011年後半論文・記事集」36ページ目を参照)※編集部注:PDFファイル

これと昨今の国政関係の報道をあわせ、同会の戦略をざっくり書くと次のようなものになります。

1:維新の会は大阪でがんばり続け自立に向けた動きを行いつつ、民主や自民や公明に対し「皆様が維新の会の主張(道州制・地域主権・一国多制度・地方自治法の改正など)を受け入れるならもしかしたら私たちは衆院選に出ないかもしれません。だけど、受け入れなければ間違いなく出ます。私たちが出たら皆様の党で落ちる議員いっぱい出てくると思いますけど、いいんですか?」と、圧力をかける(本当に衆院選に出るか出ないかは不明)。

2:そうすると、民主や自民なども維新案を真剣に考え始める。

3:ほかの地方で「うちも自立しよう!」と動き騒ぎ始めるところが出てくる。これらの地方が、維新の会がやっているのと同様の圧力を民主や自民などにかける。

4:道州制・地域主権・一国多制度・地方自治法の改正などが衆院選の争点になり、紆余曲折を経て実現。

細かい点はさておき、この1~4が道州制などの面に関する維新の会のざっくりとした戦略です。各党が道州制に向けた案の検討に入ったことを見ても、この戦略は現時点ではそこそこうまくいっていると言っていいでしょう。

◆それが沖縄にどうプラスの影響をもたらし得るのか

さて、実際に上記の流れが進み、道州制・地域主権・一国多制度・地方自治法の改正などが実現したら何が起きるのでしょうか。

おそらく様々な変化が日本各地で起きるのでしょう。この中でも特に大きな変化が起きると私が考えているのが沖縄県です。沖縄県は沖縄州となり、政策の自由度が飛躍的に広がります。そして、沖縄州当局が制度設計や運用をうまくやれば、今までおさえつけられていた沖縄のポテンシャルを解放し、すばらしい変化を沖縄に起こすことができるのです。具体的には、次のようなものです。

(1)沖縄の税金を下げ、英語環境を整え、世界中の金融機関や企業を呼び込む

いわゆるシンガポールや香港がやっている手法です。このうち金融機関の誘致の部分については、作家の橘玲氏が以前から次のような方針と税制を提案しています。

橘氏の提案
方針
1.米軍基地を受け入れるかわりに、沖縄は日本国に対して自治権を要求する。
2.日本国の自治領として、タックスヘイヴン(オフショア金融センター)化を実現する。

税制
1.金融商品(預貯金・株式・債券・ファンド・デリバティブなど)から得るインカムゲイン(利子・配当)とキャピタルゲイン(譲渡益)は非課税。
2.相続税・贈与税は廃止。
3.(沖縄の)域外で得た所得には課税しない。
4.日本居住者は域内の金融機関を利用できない。

(詳しくは、橘氏の「沖縄をタックスヘイヴンに」シリーズ()()()をご覧ください。どれもとても良い記事です。)

沖縄州になったら財源や税制を沖縄の意志で決めることが可能になるので、橘氏の案を全てそのままやるのは難しくても、かなり近い形のものを実現することができるでしょう。

私はヘッジファンドで働いていたときにシンガポール、香港、ドバイ、ロンドン、ニューヨークなど世界中の金融都市に足を運び自分の目で見てきました。その上で断言します。沖縄はこれらの金融都市と十分互角に戦えるだけのポテンシャルを持っています。それどころか、制度設計や運用をうまくやればこれらの地域に勝ち、世界中から金融機関や企業やマネーを呼び寄せることすらできると思います。

なお、沖縄には実は今でも金融特区があります。この金融特区の担当者の人が昨年幕張メッセで開かれたイベントに来ていたので、私は仕事とは関係なくプライベートで直接話を聞きました。とても誠実そうな人でしたが、特区の内容自体は正直「これじゃ金融機関もファンドも企業もほとんど誰も来ないだろうな……」という残念なものでした。はっきり言ってこんな中途半端な制度ではシンガポールや香港には絶対勝てません(関係者の方、ごめんなさい。補足すると、この点については私は沖縄県を擁護したいです。今は国に税財源や権限など何から何までがんじがらめに縛られているので、こうなってしまうのはどうしても仕方ないからです。担当者の人もこのことは重々承知されているようで、すごく歯がゆいと言っていました。今はどうにもできませんが、維新の会が起こしたムーブメントが成功すれば、必ずこの担当者の人たちは良いシステムを作ってくれると思います)。

また、この案を実現するには英語が州内のどこでも通じるようにすることが重要になります。この点でも沖縄は強いです。なぜなら、基地がある関係で、日本の中ではもっとも英語へのハードルが低い地域の一つになっているからです。日本語と英語をどちらも公用語にしたり、沖縄州民なら誰でも英語を安く勉強できる支援制度を作るなど徹底して英語環境をさらに整備すれば、香港程度の英語レベルにはすぐに追いつけると思います(香港は世界屈指の金融都市ですが、実は平均的な香港人の英語レベルはそこまで高くないです)。もしかしたら「沖縄州でがんばれば英語が身につく!」という評判が広がり、本土から永住希望者が殺到し、お金を落としてくれるかもしれません。

ちなみに、上記の橘氏の提案は金融機関に限った話ですが、これを一般企業に拡大することも検討していいでしょう。この点については長くなるので、またの機会に書くことにします。

田原 健央
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※編集部注:以降、明日掲載の「維新の会が沖縄にもたらす『最高・最強のプレゼント』とは(下)」に続きます。