3.11後、団塊の世代は社会を疑い、若者は自分で自分を守る必要を感じるようになった

新 清士

3.11の以降、団塊の世代は国や社会への信頼を疑うようになり、
若い世代は自分を自分で守らなければならないと思うようになった。

3月16日に行われたOGC2012というカンファレンスで、アスキー総合研究所の遠藤諭所長が同研究所でまとめている「MCS2011」という調査の一端を披露した。そこでは、3.11以降、世代によって感じ方がどう変わったのかが調査データを使って、明らかにすることが行われた。


この調査は様々なデバイスやコンテンツがどの層に人気があって、受け入れられているのかを調べる大規模なアンケート調査だ。例えば30代に人気があるガンダムが好きなユーザーは、どのサイトをよく見ているのかを明らかにしたり、iPhoneは女性に強いことを明らかにした上で、そのユーザーがどんな趣味を持っているのかというクロス集計を行える。もちろん有料なのだが、コンテンツ産業の動向を理解するために使える画期的な調査資料だ。

ただ、昨年の調査では、これまで調査項目に入っていなかった質問が追加された。3.11によって、一般の消費動向や社会の考え方がどのように変化したのかということを調査項目に追加したのだ。遠藤氏も「質問を追加することを避けられなかった」と述べていた。もちろん、ニュースに対する関心は全体で26.5%と高まっており、これはどこの世代にも共通している。一方で、消費を押さえようと動きは全体で8.8%も出ていることが明らかになっていた。これは当然のことだろう。

しかし、3.11以降の変化について世代によって大きく差が付いている項目があった。特に女性にはその傾向は顕著だ

「政治や社会制度への信頼感が低くなった」と答えたのは、20代女性で13.8%、これは年齢が上がるにつれて高くなる傾向があり、60代女性では24.1%にも上る。平均が15.1%ということを考えると、年齢が世代ほど社会への信頼感が低下している。

一方で、「貯蓄・保険に関する意識が高くなった」という項目は逆の傾向を示している。20代女性では25.5%の女性が上げているのに対して、60代は13.1%。平均は12.6%であることを考えると、完全に逆相関の関係にある。若い人ほど関心が高まっている

もちろん、この結果は、アンケート調査に過ぎないので、その意味には解釈が必要だ。遠藤氏もその注意点を述べていたが、それでも一定の方向が見える。

一般的に日本人は、他の国以上に、国家に対しての信頼感が強い。各新聞などのマスコミは政府に対して、社説等で改善すべき点を厳しく糾弾する。NHK「クローズアップ現代」は最後には、起きている社会的問題に対して「何らかの行政の対応が必要ですね」という結論に持っていくのは定番の展開だ。それは、日本という国家に対して批判を行っていけば、お上がどうにかしてくれるという気持ちがあるからこそだ。

これは、国家を、国民が本音ではそもそも信用していないアメリカや中国といったところとの大きな違いだ。日本人は国家が自分たちを信頼してくれると漠然と考えているからこそ、飲み会の席でも、枕詞のように、政府や行政への文句を言うのだ。

しかし、この結果は、別の側面も見せている。3.11は、世代間の将来についての感じ方をクリアにあぶり出しているように、私には思える。

高度成長期時代を知り、多くの成功体験を積み重ねてきた60代を迎える団塊の世代は、日本という国家に対して信頼を損ねるような機会はあまりなかった。失われた20年を通じても国家に対しての信頼は残っていた。ただ、今回の3.11に直面したときの政府、行政、東電のあまりにも危機管理での脆弱性を目にしたとき、自分たちが信じていた国家というものを本当に信頼して良いのだろうかという疑問を感じたのではないだろうか。

一方で、今の若年層は、最初から日本という国家が自分たちを守ってくれるなんてことは最初から思っていない。年金などが自分たちの将来の安定性を守ってくれるとは本気で思っている人は少数だろう。むしろ、自分たちの人生が振り回されているという実感はあるだろう。だが、今後の長い人生を送っていく中で、自分の将来は自分で何とか守っていかなければならない。そのためには、貯蓄や保険を考えていかなければならないと、これまで以上に感じるようになったのではないだろうか。

しかし、希望を感じさせることもある。女性たちは男性たち以上に「人とのつながりに関する意識が強くなった」と答えている割合が多い。20代では20% を越えており、それ以外の世代でも、15%前後かそれ以上になっている。これは平均で10%を切る男性たちとは大きな違いだ。それでも、平均では12.1%の人が感じている。社会が混乱し、将来の見通しが不透明な今の時代であっても、人とのつながりによって、難しい状況を越えようとする気持ちあることがこの調査からは見えてくる。

日本の社会はさらなる混沌に向かっているように思える。ただ、世代の立場によって違いを抱えながらも、それを越えて、社会に安定性をもたらすために、人と人とのつながりを大切にしたいと考えている人々の姿がこのデータからは見える。もちろん、こうした気持ちは時間が経ち、人々が日常の生活に飲み込まれていくうちに失われていくものであるものかもしれない。しかし、今の難局を乗り越える一つの希望ではあると思っている。

新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT) @kiyoshi_shin