新しく就任した民放連会長の井上氏がNHKに番組のネット同時配信をしないで欲しいという発言したことに対して私のTwitterのTLでは「なぜNHKのやることに民放が反対するのか」「民放もネット配信すればいいだけ」という批判の声がたくさんありました。
以前”「ちょっと何言ってるかわかんないです」~民放連がNHKのネット配信に反対する理由“という記事を書きました。この記事は民放連が発表した反対理由があまりにも意味不明でおもしろすぎたので晒すために書いたのですが、ここに書かれた意味不明な反対の理由は飽くまでも建前です。
なぜNHKがネット配信をすると民放が困るのか民放の立場になって反対する理由を推測したいと思います。
まずNHKがネット配信をすると何が困るかというと視聴者がNHKを見る機会が増えることです。そうすると人の可処分時間は限られていますから地上波の民放を見る機会が減少します。すなわち民放の視聴率が減少するわけです。ましてやNHKオンデマンドが無料で見放題になれば一大事です。
「NHKがネット配信をしたら困ると言うなら、民放も対抗してネット配信すればいい。そうすればむしろ視聴者の視聴機会が増えてテレビとネットを合わせた視聴率が向上するじゃないか。」と誰でも思うはずです。しかし民放にはネット配信に積極的になれない理由があります。民放が番組のネット同時配信を広告収入による無料放送で行おうとすると非常にまずいことが起こります。
放送で広告収入を得るためにはどれくらい放送が視聴されたかの指標が必須です。地上波放送では視聴率が使われていますが、今の視聴率は極めて怪しげな方法でカウントされています。
例えば調査対象になる世帯を選ぶ時に以下のような条件があります。
・固定電話がある世帯
・テレビがある世帯
・調査に協力してくれる世帯
今の時代はこれらの条件を満たす世帯は昔と比べてかなり減ってきているので、偏ったサンプリングにならざるを得ません。特に無作為に抽出した世帯がテレビを持っていない場合でも、その世帯をサンプルしなければならないはずです。
さらに世帯視聴率というものにも問題があります。
視聴率には世帯視聴率と個人視聴率があります。普通は視聴率といえば世帯視聴率のことを意味しています。世間に公表される視聴率もこの世帯視聴率です。しかしこの世帯視聴率という指標は調査対象の世帯の中で一人でも見ていればカウントされるので、ある世帯で一人だけが見ている場合はその世帯の分の世帯視聴率は個人視聴率より家族の人数分だけ掛け算した値になります。家族全員がテレビを見て初めて個人視聴率と世帯視聴率が一致します。本来、視聴率というものは個人視聴率でないと意味がありません。世帯がテレビを見るわけではないのですから。
このような調査方法では結果的に視聴率が粉飾されているということになります。
もし地上波のテレビ局が広告収入による無料放送でネット配信を始めると、ネットでどれだけの人が見ているかという指標は普通は視聴者数で視聴率という指標はむしろ不自然です。ニコニコ生放送やユーストリームでもリアルタイムで正確な視聴者数がわかります。ネット配信の視聴者数と地上波の視聴率×人口でスポンサーが同じ広告料を払うとした場合、視聴率が粉飾されているのでネット配信の広告料のほうが少なくなるはずです。さらに人の可処分時間は限られているのでネット配信を見るということは地上波を見なくなるということに他なりません。つまりネット配信に積極的になればなるほど広告収入が増えるよりも減る可能性のほうが高いということになります。
自分たちは視聴率の粉飾がバレるネット配信に移行したくない、しかしNHKだけ抜け駆けでネット配信されたら視聴者は便利な方に流れていくからそれも困るということでしょう。
逆にNHKは視聴率は収入に関係無いですし、テレビを持っていなくてもネットユーザーから受信料を取れるかもしれないという動機があるのでネット配信に積極的だと思います。(NHKオンデマンドに民放連が独立採算でやれと文句つけたりしているのであまり進んでいませんが)
ちなみにテレビ局がネット配信する場合、上述のように無料広告放送モデルでは地上波での視聴率の粉飾がバレてしまいますが、有料配信ならスポンサーは必要ありませんので、地上波の視聴率の粉飾という既得権に抵触せずに済みます。なので民放が行うネット有料配信についてはアクトビラや4月から始まるもっとTVなどがあります。
というわけで民放がネット配信に消極的なのは、自分の既得権を守る合理的な判断であるということです。
平成の龍馬(多田光宏)
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