販売元:日本経済新聞出版社
(2012-03-22)
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★★★★☆
著者は全員アゴラのメンバーなので、書評というより問題提起をしよう。
本書のテーマとしている世代間格差は、アゴラの読者にはおなじみだと思う。著者のひとり加藤久和氏の本の書評でも書いたように、経済学者の意見はほぼ一致しているが、政治はこの問題に(与野党とも)まったく手をつけようとしない。その解決策としては、本書の第1章で小黒一正氏が紹介しているように、世代別選挙区、ドメイン投票など若者の意思を反映させる制度改革が提案されているが、それで問題が解決するだろうか。
私は悲観的である。第一に、民主主義が民意を反映するというのは神話であり、さまざまなゆがみが避けられない。特に国政選挙では、1人の投票で結果が変わる確率はほぼゼロなので、棄権して他人の投票にただ乗りすることが合理的である。このため政治的意思決定に大きな影響を与えるのは、利益集団である。
第二に、かりに民意を100%正しく代表する政治システムが実現したとしても、有権者が合理的な決定をするとは限らない。目に見えやすい短期的メリットを重視し、わかりにくい長期的コストを無視するバイアスがあるからだ。現在の大きな世代間格差は、これを反映した(自民党政権から続く)ポピュリズムの結果である。
さらに日本では、成立する法案の80%は内閣提出法案であり、国会が立法機能を果たしていない。実質的な意思決定は儒教的な官僚機構によって行なわれているが、これをコントロールする専制君主がいないため、省益の利害調整で政策が決まる。この官僚内閣制を変えないと、本質的な変化はできないだろう。
つまり問題は世代間格差だけではなく、日本の統治機構の欠陥なのだ。タコツボ的な官僚機構の自律性が強く、政治家がその利害調整をする自民党型システムは、高度成長期にはうまく機能したが、大きな路線転換ができない。そのシステムを変えないで「政治主導」でやろうとした民主党政権は、官僚のサボタージュで大失敗に終わった。
日本の政治のコアは国会ではなく霞ヶ関にあるので、これを変えないで西洋から輸入した民主主義で「主導」しようとしても、できるはずがない。重要なのは、選挙制度より官僚機構の改革だ。特にイタリアのような独裁官を導入して内閣の権限を拡大し、各省の局長以上は政治任命にするなど、指揮系統を明確にする改革が必要だと思う。