イギリスのLloyds TBS のGlobal Housing Marketによると2001年から2011年までの10年間で世界では平均14%の不動産価格上昇を記録していますが、日本はその調査の中では最悪のマイナス30%となっていると発表しました。
不動産公示価格が緩やかな下落を継続し年に2~3%ずつ下がっている現実を考えれば10年で30%の下落は妥当な数字だと思います。
では他国を見るとドイツがマイナス17%、2000年代に不動産バブルを経験したアメリカはマイナス2%となっています。つまり、世界経済のリーダー国は一様に不動産価格については厳しい状況にあったといえます。
一方、数字的に最大の伸びだったのはインド、ロシア、南アフリカといった新興国。10年で不動産価格が280%から160%値上がりしています。驚異といってもよいと思いますが、新興国ならではの現象です。中国は意外にも47%、カナダは28%です。カナダが28%というのはかなり低い感じもします。バンクーバーあたりは2倍以上になっていますから100%以上の値上がりがあってしかるべきですが、カナダ全部の平均となるとそのあたりに落ち着くのでしょうか?
不動産の価格は土地の需要が多いことで値上がりを誘発しますが、その理由として経済の発展、人口増、借り入れ環境などが重要なファクターとなってきます。日本が3割も下げたというのは借り入れ環境は悪くないものの経済と人口が足を引っ張ったことになります。
また、アメリカ、日本とも世帯数に対して既存住宅数がはるかに上回っている状態であり、家は一家に一軒以上ある状態になっています。これが日米独特の指数が上がりにくい理由。
もうひとつは日本の住宅の償却が早すぎることで古い住宅に住宅ローンが着かず、結果として古い家をローンをつけて買うことができないというシステム上の問題があります。カナダの場合、建物の価値はリプレースメントバリューで評価されますから建築費や建築資材のコストが上昇すれば建物の価値はどんどん上がっていく状態が生じます。銀行はこのアセスメントをベースに貸付額を決定しますので根本的に発想が違うことに注意すべきでしょう。
日本は紙と木の家といわれ、長持ちすることを前提としておらず、防災上の観点からも早めの建て替えを意図していることから早い減価償却の発想が生まれたものと思われます。しかしながら今や建築技術は大幅に向上しているわけで、この償却方法の見直しを早急に行い、○○年以降の建築物件は償却は○年といった見直しをすれば日本の住宅価格は中期的に大幅上昇させることが可能です。あるいは一定の防災や強度を含めた工法をとったものの償却期間を大幅に伸ばすだけで世の中の不動産ピクチャーはまるで違ったものになります。
さて、先進国でも不動産価値が常に世界のトップクラスであるバンクーバーは決して工業都市や金融都市ではありません。しかし、成熟感ある街づくり、完備された住環境の提供はカナダ国内のみならず、世界中からのマネーが集まる構図になっています。これがバンクーバーの不動産が常に注目されている理由です。
とするならば日本でも都市やエリアベースで魅力あるものにしていくことで高い不動産価格を維持することは可能かと思います。多摩ニュータウンの一角にそのようなコンセプトを持っているところがあるそうですが、デベロッパーや近隣住民、地域行政が一体となれば不動産は必ずしも下がるばかりではないと思います。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年4月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。