著者:浅川 芳裕
販売元:ベストセラーズ
(2012-03-16)
★★★★☆
半導体も家電も壊滅状態で、日本には何が残るのだろうか――という話を先日、在米の高名な経済学者としていたら、「食い物だよ。日本に帰ってくると、どんな安い店でも食い物がうまくて感動する。パロアルトでは、日本の若者の開店したラーメン屋に長い行列ができる。アメリカ人でも、うまいものはわかるんだよ」と言っていた。
農業は衰退産業というイメージがあり、TPP(環太平洋パートナーシップ)反対派も「自由化したら日本の農業は全滅する」などといっているが、著者もいうように「食」は成長産業である。新興国の旺盛な食欲で、世界の農産物市場は2013年には2兆ドルを超える見通しだ。これは家電の世界市場(6800億ドル)のほぼ3倍である。
「日本は国土が狭いので農業に向いていない」という話も正しくない。世界第2位の農産物輸出国は、面積が日本の1割強しかないオランダである。その主力は花や野菜や果物であり、輸出量は伸びている。著者もいうように、『日本は世界5位の農業大国』であり、野菜や畜産物の生産性は高い。狭い国土で集約農業をやってきた日本農業の競争力は高いのだ。
こうした質の高い素材を使えば、世界的に評価の高い日本食を世界に輸出することもできるが、現状ではむずかしい。その原因は、輸入規制だ。日本の冷凍食品は海外でも人気があるが、国内で生産すると米の値段が高すぎて採算が取れないので、食品業界は海外に冷凍食品の工場をつくっている。日本のお菓子も人気があるが、日本でつくると砂糖やバターなどに高い関税がかかっているため、輸出できない。
洗練された味覚は、日本の大きな比較優位である。それを活用するには、日本食を世界に輸出する戦略が必要だが、その最大の障害になっているのは「保護しないと農業は滅びる」と思い込んでいる農水省と農業団体なのだ。