ニューメディアリスク協会の設立 --- 中村 伊知哉

アゴラ編集部

2012年2月13日、一般社団法人「ニューメディアリスク協会」が設立されました。インターネット上で特定の企業や従業員が一斉に批判を浴びる「炎上」が相次いでいることを受け、防止策を研究し、ソーシャルメディアを企業が活用する際のリスクを低減するための手法を考えるためのものです。

ぼくが理事長を務めます。企業、自治体などのリスクマネジメントや広報の担当者の参加を募っています。 定期的な勉強会などを通じて、ソーシャルメディア活用に関するリスクや対策に関する情報を共有する予定です。


ソーシャルメディアが急激に普及し、スマートフォンなどデバイスも進化した2011年は、ネットのリスクが飛躍的に高まった年でもあります。“炎上”は、2011年には前年度の倍以上に増加したといいます。ソーシャルにより一瞬でメッセージが拡散するようになることに加え、スマホは誰でも写真で簡単にソーシャル参加するようにします。この傾向はこれから拍車がかかります。

有名人の来店を店員がツイートし、その店のサイトが炎上。内定学生がツイートで暴言を吐き、その企業のサイトが炎上。テレビ局への批判がそのスポンサー批判にまで引火。職員のやらせメールがソーシャルサービスで発覚し問題化。いろんな炎上、情報漏洩、さまざまなパタンがみられます。会社で行ったことが批判されるだけでなく、職員が個人で行ったことが会社に被害を与えたり、関係者は何にもしてないのにとばっちりで炎上してしまったり。

根拠のないネット上のつぶやきが一瞬で拡散して、大問題に発展することもあります。企業にとってはその存在すら脅かされる死活問題となり得ます。技術的 に、あるいは制度的に対応することも考えられますが、それだけでは頼りになりません。企業や個人が自ら、こうした問題に対応できる体力を養う必要がありま す。

女子高生が10年前にはもう親指一つでケータイメールを打っていたように、日本は老いも若きも情報を発信する「ネットユーザ力」の高い国。世界一と言ってもよい。世界のブログで使われている言語は日本語が最も多い、という調査結果もあります。

だから、こうした問題も発生しがちです。日本は「炎上先進国」と言ってもいい。日本のネットユーザがマイナス面でも世界をリードしているのです。急激なメディアの変化と普及に社会が追いついていないわけです。スマホやソーシャルの普及により、これまで以上に多くの国民がネット社会に参加するようになり、それで新たなリスクが生じてきているのです。

他国に対処法や事例を求めても答えはありません。日本は、われわれ自身が方法を探り答えを見つけて行かなければなりません。そのノウハウを海外に教えてあげる、くらいの対応が求められていると思います。

ソーシャルサービスが社会経済に大きな恩恵をもたらすことは説明を要しません。震災後も瞬時にさまざまなソーシャルサービスが立ち上がり、被災地と全国の情報共有に活躍しました。人々の絆を強め、コミュニケーションを活性化させています。企業のビジネスにも組み込まれています。

しかし、デジタル技術を不安視する見方にも根強いものがあります。4年前、青少年のケータイ所持を巡る問題では、ケータイを規制せよという政治的動きが高まりました。結局、法律まで策定されてしまいました。当時、ぼくは規制でフタをするのは逆効果であり、使わせるべきだという論陣を張り、さまざまな運動をたばねるコンソーシアムとして「安心ネットづくり促進協議会」を立ち上げました。これでようやく事態は収まってきましたが、民間が努力を怠ると、また政治が入ってくる可能性も残ります。

本件も同様です。炎上などの新しいリスクに、民間が情報を共有して、対策を練っていくことが大切。民間がきちんと対策を講じておかないと、政治や規制が入ってくるという危機意識を持っておく必要があります。そして、そのためにも政治や関係省庁とも連絡をとりながら、努力していくことが求められます。このため、設立総会には、オブザーバとして、国会議員や総務省、経済産業省のかたがたにも参加いただきました。

入会金5万円、年会費12万円で企業や自治体、大学などの会員を募って月次の勉強会を開催し、ネットメディアを利用するうえでの注意点の啓蒙や伝達、風 評被害の防止と事後対策についての意見交換などを行います。さらに小グループに分かれた分科会で、過去に炎上被害に遭った企業の担当者に、炎上終結までの具体的なプロセスを聞く機会なども設ける予定です。

安全で活発な情報社会を共に築くことができればと祈念する次第です。

編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年4月12日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。