都市は成長を続け、企業は必ず死を迎える

新 清士

アダム・ラシンスキー「インサイド・アップル」で、アップルの今後について行われている議論のくだりで、興味深い理論の紹介があった。企業にも、都市にも、生物と同じ、普遍的な法則が、すべてに貫かれていることを証明しているという。ジョブズは会社が大きくなると官僚機構化してしまうのを嫌った考え方につなげているが、これは企業全般に通じる。

複雑系研究で知られる米サンタフェ研究所の Geoffrey West 氏のこの理論が、非常におもしろい話だったのでご紹介したい。

サンタフェ研究所の物理学者ジェフリー・ウェストは、組織の寿命を研究している。その画期的な業績は、ごく少数の例外を除いて都市は決して死なないという結果を示したことだ。最近では、研究仲間のルイス・ベッテンコートとマーカス・ハミルトンとともに、関心を企業に移し、登記された2万件以上の組織のデータを調査している。ウェストの結論は、「企業は都市とは正反対に、死にやすいだけではなく、まさに有機生命体のようにふるまう」だ。

「スケーリング則(ある範囲の大きさで成り立つことは、別の大きさでも概して成り立つこと)を研究するうちに疑問が生じた。生命体は大きさが変わったときにどう変わるのかという疑問だ」

「生命体としての人間は長期にわたって安定している。15~16年で成長し、そこからさらに50年間、安定して生きる」。ウェストの結論では、企業も人間と不思議なほどにている。「総じてどの企業も、有機生命体の成長曲線と似たS字の成長曲線(急速に成長し、しばらく停滞し、その後衰退する)を持つ。ほとんどの生物がそうだ。同じデータから、企業も死ぬことが分かった」(P.218-220)

この後に、グーグルにすでに官僚主義が入り込んでいることを述べている。また、アップルはベンチャーから多国籍企業になって混乱した後、単一製品にスリム化することで危機を乗り越えた。しかし、再び製品ラインを広げたことで、再び停滞へと向かっている可能性が指摘されている。

Geoffrey West 氏は、2006年に「TIME 100」に選ばれたことによって、研究成果が社会一般に知られるようになったようだ。論文は出ているものの、一般的な著作はない。そのうち、科学ノンフィクションでカバーされるだろう。

ただ、ありがたいことに、昨年のTEDで講演しており日本語字幕付きで、理論の概要をおおよそ容易に把握することができる。(訳してくれた方に感謝)

タイトル名は 「都市および組織の意外な数学的法則」

簡単に要約したい。

都市が巨大化する現象を説明する上で、普遍的な法則があるのか。生物の場合には、複雑なシステムにもかかわらず、すべてが同じルールに基づいている。大きさが2倍になればエネルギー消費量が75%少なくなるスケールメリット(準線形的傾向)が現れる。これを歴史上のすべての生物に当てはめても、同じ規則が現れる。そのため、あるほ乳類の大きさから、生理学、生活史など、すべてのことを、90%の確度で推測できる。これが可能なのは細胞内ネットワークや細胞間ネットワークといったネットワークやエコシステムなどの、ネットワークが原因。

この法則が、ネットワークである都市にも現れる。都市の大きさを変数にガソリンスタンドを見ると同じ法則が出てくる。都市が大きいほど、一人当たりのガソリンスタンドは少なくなる。これはアメリカ、日本、中国といった全世界どこの都市でも共通している。また、他のインフラの道路の総距離や、電線の量などでも、個々の都市計画に関係なく、同様のスケールメリットを示す。また、都市が大きければ大きいほど人口1人あたりの富が多いという現象が、生物学とは逆に現れる。これは人口1人あたりの特許数、犯罪件数、AIDS、インフルエンザなど、すべて共通している。

そして、人口10万人の都市を20万人へと2倍にしてもの都市と比較しても、100万人の都市を200万人の都市と比較しても、思いつくことすべてに対して、機械的に15%の増加がみられる。そして、それは15%の効率化が期待できることを意味しており、それが都市に人が集まる理由。

一方で、システムは資源の枯渇によって、簡単に崩壊する。しかし、都市は崩壊が近づくと、イノベーションが起きて、リスタートされることがくり返される。ただ、維持し続けるためには、イノベーションはどんどん加速しなければならない

企業にも拡大縮小性があり、収益と資産を、社員数で表した企業の大きさを変数としてプロットすると、準線形的に拡大している(売上等でも変わらない)。企業はスケールメリットに支配されている

そして、S字の形になっている。ウォルマートのケースでは1994年までは急成長をしているが、それ以降は成長ペースが緩やかになり、2008年までプロットするとS字になっている。これは理論上の計算と完全に一致している。そのため、94年にウォルマートについて計算すれば、現在がどうなっているのかを推測できた。これは23,000社調べたが、最初は急成長するが、途中から曲がってしまい人と同じように死んでしまう。

2007年に発表された論文では、ニューヨークがイノベーションによって、人口成長の限界を乗り越えていることが指摘されているが、確かに加速化している。1840年から1880年(60年)、1890年から1940年(50年)、1940年から1970年(30年)、1970年から1995年(25年)。

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そうすると、仮に次の限界が20年後の2015年頃と考えるとそれまでに、次の人口増加を支えるイノベーションが、社会に定着していなければならない。仮に、東京が同じペースであると仮定すると、近年のマンションの高層化は、そうした都市自身の持つ普遍性によって生み出されているのかもしれない。

我々の生活が昔に比べてどんどん忙しくなっているのは、都市への人口集中が進むことによって、起きる問題を、イノベーションを通じて乗り越え続けてきたためと仮定することができる。「理論的に都市が大きければ大きいほど生活ペースが速くなる」としている。そして、都市は効率化によってさらに魅力を増すため、巨大化は進み、我々もまたさらに忙しくなる。

一方で、どんなに急成長している企業でも、いずれ成長は止まり、死を迎える。生物細胞のように、人間のように。……過去のアップルのように、再びイノベーションを起こし、急成長ができなければ。

新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT) @kiyoshi_shin