ニュートンという偉大な科学者は、世界の動きや時間、空間をただ決まったルールに沿った「土台」として考えていた。
しかし、現代の物理学では、時間や空間はただの空っぽな箱ではなく、エネルギーがあふれ、さまざまな現象を生み出す大切な「場」として存在しているということが明らかになっている。
吉田伸夫『この世界を科学で眺めたら ―― 真理に近づくための必須エッセイ25』で、著者はこのことを知ったとき、まるで隠された秘密を見つけたような驚きと、心がワクワクする感動を覚えたという。
一般相対論という理論は、時間や空間が実は動いていて、重力などの力が働く理由を説明してくれる。例えば、夜空に輝く星や惑星が互いに引き寄せ合うのは、ただの偶然ではなく、空間そのものが持つ力が働いているからだというのは、とても不思議で魅力的だ。
その一般相対論によって、時間や空間はただの背景ではなく、実際に物理現象を起こす「場」であることが分かった。つまり、時間や空間自体が働きかけ、物事を生み出す力を持っている。
その後、「場の量子論」は、これまで重力だけに注目していた考えを広げ、すべての物理現象が同じ「場」から作られている可能性を示した。
もし物質が単に「粒子」として真空中を飛び回っているとしたら、空っぽのはずの真空は何もないはずだ。しかし、実は真空の中には、絶えず振動する「場」がたくさん存在している。この場の振動が、電子やクォークなどの素粒子となって現れるのだ。
これは、「空間という枠の中に物質がある」という考えではなく、空間そのものが動いて振動することで、あらゆる現象が生まれているということを意味する。ただし、重力の場を一つにまとめる試みは、まだ成功しておらず、現代物理学の大きな課題となっている。
量子論とは、原子レベルの世界で物理現象が波のように振る舞うことを説明する理論だ。私たちが普段目にするさざ波や音波、地震波のように、波は何かの振動によって伝わる現象のことだ。
さらに、「場の量子論」によると、エネルギーを加えられた場は大きく振動し、「興奮状態」となる。この興奮状態が集まって安定すると、原子や分子のように、まるで実体があるかのように振る舞う。
また、「何もない」と思われる空間、いわゆる真空は、物質がなくなった後でも完全に空っぽになるのではなく、エネルギーが散らばって、働きを止めた状態の場が残る。これが、現代の場の理論の結論であり、「物質がなくなった後は、興奮していない場が残る」という答えになる。

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アリストテレスの自然観では、真空は存在せず、すべては連続したものとして考えられていた。ニュートンの時代以降、原子が存在すると考えられるようになったが、20世紀に入り、原子を構成する素粒子が実は場の振動から生まれていると分かった。たとえば、電子は、電子の場が特定の振動(共鳴状態)を作ることで、決まった質量や性質を持つように見える。この現象は、地震のときに建物がそれぞれ固有の振動数で揺れるのに似ている。
つまり、現代物理学では、物理現象の本質は個々の粒子ではなく、全体に広がる「場」の振動にあると考えられている。シュレディンガーが先鞭をつけ、やヨルダン、パウリが引き継いだこの考え方は、波が粒子のように振る舞うと説明され、「場の量子論」によって記述される。これにより、私たちの宇宙や物質の仕組みについて、まったく新しい視点が得られるようになった。
何もないはずの空間にも、見えないけれど確かな力が働いていて、その変化が生命や私たちの日常を作り出していると思うと、世界がもっと生き生きとして感じられる。
科学は常に変わり続けるもので、新しい学説が登場しては古い理論が見直されたり、傍流だった研究が正しいと判明したりすることも多い。
『この世界を科学で眺めたら』には、「場の量子論」をはじめとした科学の話にとどまらず、私たちが生きるこの世界全体に対する新しい視点と、心からの感動が詰まっている。
第1章 人と世界
しみじみと宇宙の巨大さを想う
物事には原因と結果がある?
“真空”に満ちているもの
量子のトリセツ
虚数は“魔法の数”ではない
本当は難しいニュートン力学
最先端科学は間違いばかり
究極のエネルギーを求めて
第2章 生活と科学
「コップの水が蒸発する時間」という難問
賢いカラスに気を惹かれ
月に魅せられてもいい3つの謎
ひらめきは休息の後に
9999回の見過ごし
人類史において画期的な年
神秘の物質・水
期待されすぎの技術
第3章 科学と科学者
入り口が時代遅れでは……
科学者はなぜオカルト嫌い?
ニュートンを駆り立てたもの
マクスウェルの本心を掘り起こす
計算の苦手な物理学者でも
相対論の正しさを実感する方法
原論文から浮かび上がるもの
科学者のノブレス・オブリージュ
蝸牛角上の科学