枝野経産相が関電管内の計画停電に言及した件

山口 巌

朝日新聞の伝える所では、枝野経産相が大飯原発の再稼働が進まず、夏場の電力需要期に原発稼働がゼロになれば、計画停電の可能性があるとの認識を示したとの事である。

枝野幸男経済産業相は3日のBS朝日の番組収録で、今夏の関西電力の管内で「暑くなった場合を想定すると、計画停電の計画をたてる必要がある」と語り、計画停電を検討する考えを示した。関電は原発が動かなければ、今夏に16.3%の電力不足になるとの見通しを出している。 枝野氏は関電の大飯原発(福井県おおい町)の再稼働の手続きが進まず、「(今夏の原発稼働が)ゼロになる可能性もある」との認識も示した。そのうえで東京電力の管内で昨年に計画停電をしたことに触れ、「お願いする(節電の)無理の大きさは今年の関西の方が大きい」と話した。

関電のホームページに依れば、昨年3月末で原発の割合が48%なのだから、これが全て停止すれば電気が足りなくなるのは当然である。

従って、原発を停止すれば計画停電が必然である事は全く驚くに値しない。

老朽化した火力発電所を無理にフル稼働させ、事故が仮に発生すれば大参事に繋がる可能性が高いのも容易に推察可能である。

寧ろ驚くのは、先月の仙谷議員の「日本は集団自殺」発言から政府説明が何も進歩していない点である。

繰り返しとなって恐縮であるが、仙谷議員発言に対し、私は下記の通り苦言を呈した。

きちんとした数字を示す事無く、「集団自殺」と言う判り易い表現で国民の「不安」や「恐怖」を煽り、原発再稼働に誘導を図ると言うのは、政権与党に取っては本来禁じ手の筈である。根底にあるのは、自分達に比べて国民は知的レベルが低く、説明してやっても理解出来ないと言う思い上がりではないか?国民を愚民扱いにしている訳である。面倒で手間かもしれないが、矢張り拙速を避け、国民に向き合って下記項目を丁寧に説明すべきと思う。

それでは、今回の枝野大臣発言の狙いは何であろうか?

ズバリ、大飯原発再開に反対する橋下大阪市長への恫喝であると推測する。

自家発電設備を保有する大手製造業は別格として、中小企業は廃業や、海外移転に追い込まれる。それでも良いのか?と言いたいのであろう。

しかしながら、本来政府が国民に対し行うべきは、論理的で誠意のある、大飯原発再開の客観的正当性の説明の筈である。

何故、こんな当たり前の事、誰でも出来る事が何時まで経っても出来ないのであろうか?不思議でしょうがない。

通勤に使用する自動車のブレーキに問題があれば、絶対に運転すべきではない。そして、運転しない限り、その自動車に関する限り事故の可能性はゼロである。

しかしながら、原発の場合は運転しようが、しまいが、使用済み核燃料は原子炉内で冷却されながら保管されている。従って、運転を停止しても地震や地震に起因する津波のリスクから無縁では有り得ない。

従って、政府が先ず行うべきは、大飯原発を再開した場合と停止を継続した場合のリスクの大きさの比較対照である。

殆ど同じではないかと思うが、実際はどうなだろう?

仮に、稼働しなかった場合の避難対象地域が原発から半径20KMで、稼働した場合が半径25KMであれば、事故時の避難マニュアルの見直しで対応可能ではないのか?

最終処分が決まっていない使用済み核燃料を、無規律に増やして良いのかと言う批判は尤もである。しかしながら、これは中長期的な課題、問題であり、夏場の停電から熱中症で犠牲者が出たり、関電管内の製造業を電力不足から破綻させてまで、拙速に取り組むべき課題とはとても思えない。

こういう当たり前の事を、何故きちんと説明しないのであろうか?

消費税増税に対する野田首相の説明の拙さに就いても、アゴラ記事、何故国民は消費税増税に反対するのか? に於いて指摘したが、民主党政権は説明能力と、説明する気持ちの欠如が甚だしい。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役