東京女学館大学閉校問題のその後 美しい撤退とは?大学経営のプロ待望論

常見 陽平

 2回にわたりレポートした「東京女学館大学閉校」騒動が正念場を迎えている。本日、5月12日14時より保護者やOG、学生向けに募集停止に関する最後の説明会が開かれるという。これまでの経緯を整理しつつ、大学の正しいやめ方について考えてみたい。


まず、今までに私がアゴラに寄稿した2本のエントリーを参照して頂きたい。

東京女学館大学閉校が物語るもの 学校経営のプロ登場待望論


東京女学館大学閉校は「権力の暴走」であり「詐欺」である。
https://agora-web.jp/archives/1452636.html

要約すると、4月30日の日本経済新聞が東京女学館大学の閉校について報道したが、その意思決定や広報のプロセスにおいて学長を始めとする経営陣の暴走が見られたということである。

学生、OG、ご家族等から提供された議事録や、映像などから、前回のエントリー以降に分かったことを整理しよう。以前レポートした4月27日以降に起こったことをまとめることにする。

5月1日(火) 学生対象説明会(16時半~18時半)
資料なし、説明は10分で終了。学生、卒業生より、反対の意見が続出。「4月に入学して、友達ができて、授業も楽しくなったのに、今日は何も耳に入らなかった」「留学して戻ってきたら大学はどうなっているのか不安」「先生たちが辞めてしまったらどうなるのか」「まだやれることはあるはず」「経営できなかったのだから別の学長に代わるべき」などの意見が止まらなかった。卒業生からも、「10分の説明では理解できないし、納得もできない」「女学館大学の教育のよさは私たちが職場で実感している」「募集停止を撤回してほしい」「学校法人は黒字なのに」と意見を表明した。最後に、挙手で賛成0、反対全員で閉会。

5月2日(火)保証人対象説明会(14時半―17時半)※保証人は主に親
5月2日朝、学長からの教職員宛て通知で、説明会への教職員の参加が禁止された。
しかし、5月2日の保証人対象説明会では、保証人が学校側に強く要望し、司会の法人事務局長は、途中で参加を認めた。その後も教員の発言は認めないと言ったが、これも会場の意見で可能となった。

資料は収支に関するもの1枚のみ。説明も10数分。保証人、学生からは、「今後の教育を保障する具体策がみえない」「紙1枚の資料では募集停止の理由がわからない」「どういう経営努力をしたのか説明が尽くされていない」「なぜ学費を下げなかったのか」「失敗したのなら、別の人に代わるべき」「経営者には責任がある」など、募集停止に反対する意見が続出。また、「第三者による再建委員会を作り、募集停止以外の方法を検討すべきだ」という意見も出されたが、法人事務局長は「後で検討します」「この場は経営に関することを話しあう場ではない」と答え、会場には不満、失望の声が充満した。

5月7日、10日の説明会
同様の流れ。教職員の発言禁止続く。参加者の不満がうっ積。7日の保証人説明会は、4時間半行われた。事務局長が延々、「理事会で決まったので、変えられない」を繰り返す。「今日は説明会だから、教員の意見は聞かない」、誰も納得せず終了。こんなんでつぶしていいのかの声が圧倒的。

なお、この期間に学内では就業規則を根拠に許可無き配布物の禁止など、通告が教職員、学生向けに連発された。実際、保証人よりたびたび要望があって発言した教員が処分を受けた。真実を隠すためと見られる。

学生、OG、保護者、大学教職員の立場からすると、問題点、論点はこうなる。

(1)学校法人は赤字ではない
学校側の資料では「累積赤字25億円」となっていた。日経もそう報じている。しかし、学校会計は学校法人全体でのみ行われており、大学開校以降も黒字が基調で、内部留保を増やしており、約20億円の資産(現金預金と引当金)がある(処理していない累積赤字は0円)。大学の赤字はよくないことだが、黒字の学校法人の一部門。これをどう見るか。

(2)定員割れ=即閉校なのか?
学生募集が定員の6割程度については、全国の「定員割れ」の大学は223校で、私立大学法人全体の39.0%(前年度比0.7ポイント増)に上る。赤字だからといってすぐに閉校とはなっていない。大学には、人材の育成、高等教育の発展という社会的責任があり、国から多額の補助金が投入されているからである。定員充足率が5割までは文部科学省の補助金がもらえる上、5割を下回った年度に経営計画を策定すれば補助金が交付されるように文科省も支援策を打ち出している。そこまでいかない6割で閉校していいのか。

(3)プロセスの問題
平成25年度募集停止の文部科学省への報告用紙には「教学側」として教授会または評議会の決議を入れる項目があるのに、学校法人は、「今後説明の予定です」と述べて4月24日に提出した。大学の評議会、大学教職員対象の説明会は提出の翌日の4月25日で、大学で教育の担う教職員には何も知らせずに黙って提出した。
なお、文科省に対して学校法人は教学側(大学評議会、教授会)の否決結果を報告していない。

(4)雇用の問題
学校側の説明では、教職員は4年後に全員解雇。しかし、学長、学長補佐は、責任をとって辞めるとは言わない。

ある新人専任講師は他大学を辞めて4月より着任。4月5日に学長から、がんばってくださいと辞令を渡された。しかし、4月27日の全学教職員対象説明会で学長は「4月5日に入学生が52人だったので、募集停止を決断した」と言明。

(5)学生・保証人への周知
説明会の通知は4月28日発送、5月1日に到着で、すでに学校に行っている学生は知らないまま1日午後に開催。保証人も1日に到着、翌2日からの説明会となった。しかも、当初の理事会案では、説明会は5月1日・2日の2回で終了の予定であった。遅い通知、翌日の開催、連休の谷間での開催には不信感も残る。卒業生にも通知が発送されたが、募集停止のお知らせだけで説明会の日程は書かれていなかった。

以上が学生、OG、保護者、大学教職員の立場から見た場合の事実の整理である

「日本には大学が多すぎる」

こんな声がよく聞えてくる。たしかに、少子化が進む中、日本の大学は増え続け、現在は約780もの大学が存在する。設置基準を緩和するかわりに、保護しない政策がとられた。大学も学部・学科も増えた。大学は淘汰されるはずだったが、補助金と推薦・AO入試などによる学生獲得で延命してきた(なお、これに関連してだが、大学の数や進学率は多いか少ないかの議論は慎重にするべきではある。日本より進学率の高い国は多数存在する)。

私大は存続も撤退も、文科省への届出により行われる。極論、儲かっていようと撤退は可能だ。今回の問題で言うなら、争点はそこの意思決定のプロセスは正しかったかということになる。また、経営として最大限の努力をしたかどうかも注目したい。さらには、「大学を続けたいかどうか」というのも論点だ。

「大学はどんどん潰すべきだ」という意見は過激なようで、実はそのような流れで政策も進んでいるし、私も総論は賛成だ。問題は潰し方だろう。今回の件で言うならば、雑な運営の仕方、雑な潰し方にしか見えないのは私だけだろうか。例えばあまり使っていない校庭を売れば、10数億円になり10年は継続できるという。その間に経営改革ができる。

また、大学のステークホルダーには学生や卒業生も含まれると考えたい。母校がなくなることを賛成する人は、当然、なかなかいないものであるが、この大学の学生、保証人、卒業生の反対の強さは、この閉校の異常性を示す。

同校は大学入学後にも学生を伸ばす教育、優れたキャリア教育で知られていた。最初のエントリーで述べた「大学経営に、強い経営のプロを」という私の主張は、ますます揺ぎ無いものになった。高い評価を得ているのだから、外部から新しい経営者を立てる、MBOを実施するなどはできないものだろうか。

「日本の大学など潰れてしまえ」は暴論のような正論だし同意するが、粗雑に潰していいものでもない。精一杯の努力、美しいやめ方を期待したい。

今後も大学の閉校をめぐるドラマは各校で起こることだろう。あなたの母校が、お子さんが通う学校で同様の問題があったらあなたはどうするだろうか?

さて、今日は最後の経緯説明会だ。どんな説明がされるのか。注目したい。