小沢氏は離党しない

小幡 績

メディアの政治報道も、インテリと呼ばれる人々の議論も、少し過激化しすぎていないか。

野田首相も小沢氏もそんなにめちゃくちゃなことをするわけでもない。合理的に行動すると考えておおかた説明できる。

メディアやインテリ達の意見が先鋭化するのは、政治をエンターテイメントと捉えているから、過激なストーリーでないと面白くないのだ。

それだけの理由だ。

真実はごく普通のところにある。

小沢氏の離党はないだろうし、野田首相は基本的に解散は避ける方向でいくはずだ。


野田首相は、消費税引き上げは日本のために必要だと思っている。だから、消費税引き上げを目指す。しかし、かれは同時に民主党の代表である。自分の組織をぶっ壊すことはしない。小泉もぶっ壊したのは、党内の敵であり、派閥も自民党も組織の維持、拡大を図ったのである。

問題は、そのどちらが優先するか、であるが、本当に二つのことが対立すれば国を守ることが優先されるが、消費税というのは、重要であるが、今国会で法案が成立しなければ即座に国が滅びるものでもない。そもそも、法案が通っても、引き上げが実現するのは再来年、しかも延期条項は当然含まれるから、その再来年の実現も不確かである。そのような状況で、自分が代表をしている組織を分裂、崩壊、させるようなことはしないはずだ。

だから、野田首相は、自民党と妥協して消費税法案の成立を目指すだろうが、解散はできる限り避けるだろう。

もちろん、解散の可能性もある。しかし、それは、このままずるずると来年の夏あるいは秋に選挙が行われることで、民主党の仲間達にとって、組織にとって、不利になるのであれば、今解散する、という選択肢はあり得る。それは組織防衛であると同時に、日本の政治や社会にとっても、政党の分裂を繰り返すことがプラスにはならない、という判断も働くからだ。

だから、解散はあり得る。自民党次第だが、話し合い解散というよりは大連立解散的なものになるのではないか。首相は自民党に譲るが、与党であることは維持する可能性はある。

このとき、小沢氏が離党するのが当然のように思われているが、そうでもないのではないか。

小沢氏は離党すれば勝算はもうない。誰とも組めないだろう。橋下氏は人気のない小沢氏と組む可能性は選挙前にはほとんどないだろう。

それよりも小沢氏あるいはグループにとって望ましいのは、選挙は民主党のまま戦って、あるいは選挙があろうとなかろうと、9月の代表戦で勝負をする、ということだ。選挙に負けても、選挙がなくても、野田首相の政権運営を批判し、代表戦で対決する。選挙に惨敗すれば、自動的に野田氏は代表を降りる可能性も高いから(惨敗の程度によるが)、そのときは、誰が代表戦に立つにせよ、グループとして勝利することを目指す。これならば、買った場合には、民主党全体を動かすことができるから、政権を取り、その中核になる可能性がまだ残されている。

だから、小沢氏は決して離党しないだろう。

そして、小沢氏に離党を迫るのは野田首相としては難しいだろう。消費税法案に反対しても、議決で反対ではなく、欠席すると思われ、そこで大量に除名するのは難しいし、得ではないから、しないだろう。

したがって、意外と淡々と進むと思われる。

消費税法案の様々な条件は自民党の言い分がほとんど通るだろう。自民党としても、選挙をしなければとにかく駄目だ、というロジックでは世論の支持を失って行くであろうから、どこかで妥協をしないといけない。

だから、解散はあり得るが、それほど劇的な変化が起こるわけでもなく、個々の議員に当落で人生が変わるだろうが、国政の動き自体は、第三極が政権を取らない限り、変わらない。それは社会にとっても怖いが、自民にとっても怖いので、大連立的な解散はあり得るだろう。