経産省は「エネルギーミックスの選択肢」と称して、「原子力依存度」が0%から35%までの案を総合資源エネルギー調査会で議論しようとしているが、これは手段と目的を取り違えたものだ。原子力依存度などという数字には何の意味もない。この資料も認めるように、それは市場経済では競争によって決まる結果である。
重要なのは、エネルギー政策で何を実現するかという目標設定である。それは資源制約のもとで長期的な供給量を最大化すること、いいかえれば必要なエネルギー供給のための社会的コストを最小化することだ。この場合の社会的コストには燃料費などの直接コストだけではなく、環境汚染、気候変動、事故などによる外部コストが含まれる。
EU委員会がこの外部コストを2001年から調査しているプロジェクトがExternEである。その報告書では、エネルギーの相対的な外部コスト(発電量あたり)を上の図のように示している。温室効果ガス(横軸)についても大気汚染や事故などのリスク(縦軸)についても、圧倒的に危険なのは石炭であり、原子力のコストは再生可能エネルギーと同じぐらいだ。
さらにくわしくみると、次の図のように原子力の健康リスクは水力や風力よりは高いが、太陽光発電(PV)より低い。最悪なのは褐炭(lignite)と石炭である。原子力の生態系に与える影響は、水力や風力と並んでもっとも低い。
これは今までにも紹介してきたOECDやWHOなどの調査とも一致している。要するに原子力の外部コストは、火力よりはるかに低いのだ。したがって問題は「原子力依存度」ではなく、火力発電の外部コストをどのように内部化するかということである。一つの方法は、火力に高率の炭素税をかけてそれを原子力に補助金として出すことだ。
しかし、もっと低コストの方法がある。それは原子力の安全基準を見直すことである。多くの科学者が実証的に示しているように、ICRPが50年前に決めた線量基準は放射能のリスクを1000倍以上も過大評価しているおそれが強い。その科学的根拠をゼロベースで見直せば、たとえば低レベル核廃棄物の環境基準は石炭火力と同等になるだろう。原発の建設コストの半分以上は安全コストだから、その安全基準を他の発電所と同じにすれば、発電量あたりのコストは、おそらく原子力が最低になるだろう。
したがって経産省の報告書で原発を環境リスクととらえ、GDPとトレードオフになるかのように書いているのは間違っている。原発の環境負荷は火力より明らかに低く、「本当のコスト」を内部化すれば、原子力は経済成長を最大化するとともに環境負荷を最小化する可能性もある。経産省の仕事は、過剰規制を見直して社会的コストを厳密に計算することだ。