昆虫を操るバキュロウィルスに学ぶなら・・・

マーケティングに関する、至極当たり前のポストを一つ。

2012年6月17日付けの日経新聞を久しぶりに読んでいたら(新聞はとっていますが、滅多に読まない)、昆虫に感染して運動機能以外の神経系統を破壊し、カラダを乗っ取るという世にも恐ろしいウィルス、バキュロウィルスの話に興味をひかれました。

バキュロウィルスは、感染した昆虫が、幼虫から成虫に変態するのを妨げるうえ、できるだけ枝葉の高いところに移動させ、敢えて他の虫や鳥などに食わせるか、そのまま枝の先で宿主を殺してしまうそうです。鳥に食われれば糞に混じって飛散し、枝の上で死ねばそのカラダを溶解させ(恐怖!)、その状態から周囲に行動範囲を広げつつ新たな宿主を増やしていくらしいのです。


幸いにして、映画「ボディースナッチャー」や「遊星からの物体X」さながらのこのウィルスは、鳥や人間などの脊椎動物には感染しないそうです。さらに、特定の相手にしか寄生しないことから、バキュロウイルスを一種の農薬として応用する研究も進んでいるとのことですが、なんとなく気持ちの悪い話です。(感染するとしたら、まさしく「バイオハザード」のTウィルスのように人類を滅亡に追いやるかもしれない恐ろしい相手ですから)

さて、僕はいわゆるソーシャルメディアマーケティングに関わる仕事をしているわけですが、クチコミを醸成し拡散させるための手法は俗にバイラルマーケティングと言います。バイラルとはウィルスのことです。

つまり、伝えたい情報(例えば担当する商品のブランドイメージ)を人々に認知させ、記憶させ、誰かに伝えさせる、という行為を誰かに起させる。要は感染させて、バキュロウィルスさながらに自分たちが期待する行為を自発的にしてもらう、ということです。

バキュロウィルスは(宿主を殺してしまうので、例として持ち出すには不適格と思いますが、本来効果的なマーケティングやブランディングとは伝搬方式や効果をもたらす過程がとても似ています。ただ繰り返しますが、バキュロウィルスが感染した宿主を死なせてしまうように、人の心に入り込み、自在に操ろうとする技術はマインドコントロールそのものであり、感染者を不幸にするリスクが多くあります。マーケティングと呼べば何でも許させるものではないことは言うまでもありません。

というより、こうした手法は劇薬のようなもので、使う者によって薬にも毒にもなるということです。利己的に昆虫を利用し殺してしまうように見えるバキュロウィルスでさえ、実は宿主を全て殺してしまえば感染ルートをなくし、自分たちが困ってしまうので、ある意味”ほどほど”を知っています。

自然界からヒントを得て急速に進化を遂げるテクノロジーは多いのですが、ウィルスの感染方法から着想されたブランディング戦略は、正しい信念と良心を持たない者が扱うと、デマゴーグ化し、多くの消費者に被害を及ぼします。優れたマーケティング技術を持つ者は、ダークサイドに堕ちやすいとも言えます。

最近ソーシャルゲーム業界が射幸心の煽り過ぎで叩かれました。ソーシャルメディアマーケティングにおいても、ステマ(ステルスマーケティング)という姑息なやり方に手を染めてしまった=ダークサイドに堕ちてしまった者も多く出ました。マーケティングや、その技術開発に勤しむ者は、消費者を感染させ、自在に動かすことにばかり取り組むことなく、宿主である消費者を楽しませ、幸福にすることを考えなければなりません。クライアントのために長期的に貢献するためには、利己的ではなく利他的な”ウィルス”を作り上げていく必要があるのです。

小川浩@ogawakazuhiro