路線価が発表になりました。これは3月に発表される国土交通省の公示価格を参照にして国税庁がこの時期に発表するもので主に相続や贈与などの計算のベースとなります。結果的には3月の公示地価が4年連続下落でしたので当然ながらその流れを汲みこちらも下落していますが、公示地価、路線価共に比較的下落率が少なくなってきたことには注目に値します。
今回発表の路線価の場合、東京は2011年のマイナス2%からマイナス1.2%、大阪でマイナス3.4%からマイナス1.7%と確実にその下げ幅を縮めていますので指標トレンドだけをみれば2年ぐらいのうちにはプラス転換する公算も出てきました。
では、実際のところ、路線価にしろ公示地価にしろ、今後、上昇する気配はあるのでしょうか?
まず世界景気を見た上で日本の位置づけを考える必要があります。
私の手元にある種々の経済予想の数字を見る限り、2013年は思ったより芳しくない可能性が高いと想定されています。理由は今年が「選挙イヤー」であったこともあり、主要国を中心に経済活性化のための武器を多用しすぎたことで来年はその調整に入る、というものです。更に今後、中国、アメリカの指導者がどう決定し、どういう経済政策を打ち出してくるか注目されるわけで選挙後、急速な変化が起きることは想定しにくいのであります。
また、ヨーロッパの経済の調整もまだまだ相当時間がかかると思われ、アメリカも2014年後半まで現在の低金利政策を継続する方針を変更していません。
では、日本ですが、日本の不動産が世界の主要都市に比べ相対的にかなり安く、投資利回りが高くなっていることについては以前指摘しました。よってポテンシャルにはもう少し土地の価値が上がってもおかしくありません。一方、海外投資家からすれば中長期的な為替が円安になれば為替損が生じますし円高になれば為替益も享受できます。
欧米の低金利政策は当面続くとみられ、そうなれば円が高くなるバイアスのほうが高くなります。一方、欧州問題でリスクオフモードでセーフヘイブンの円が買われていたとなれば欧州問題が片付けば円安になるバイアスになります。このあたりの駆け引きをどう捉えるかという事になると思いますが、私は極端な円安になる理由は見出せません。よって、そうであれば海外からの不動産投資にはプラスに働くと考えられます。
では誰が買うのでしょうか?私は中国がいまだに脅威であります。なぜなら土地の所有権が認められない中国人にとって私有の不動産は極めて魅力的であると考えられるはずだからです。更に中国の不動産バブルが顕著であるが故に不動産投資筋はリスクのより少ない日本に資金を向けやすい状況にあると考えてもおかしくありません。
一方国内市場だけをみれば少子高齢化と長期にわたる給与所得の低迷、住宅ローンを組むにも安定的な収入が求められることを考えれば住宅所有についてはマイナスファクターのほうが多いのですが、住宅所有をギブアップする層が賃貸の需要を押し上げる公算は否定できません。
今後の市場変化の予想としては高齢者向け賃貸住宅は時間と共にその普及率は高まる公算はあります。また、民間の一般向け賃貸住宅の世帯平均年収額は417万円と戸建てのそれに比べ200万円以上も低くなっており、更に世帯主の66%が30歳代以下となっているのが特徴です。この30歳代が不動産所有ギブアップ層のまま40歳代に突入するとすれば低廉な民間賃貸住宅の需要は今後増えるとみられます。
しかも一昔前の「老後の為のアパート経営」というスタイルは今やワークしませんので専門業者がビジネスとして土地取得に動いてくれば土地の需要の底上げには当然つながってくるのではないでしょうか?
結論的にみればプラスファクターとマイナスファクターが絡み合いがならも土地価格はゆっくりと回復基調をとるのではないかとみています。2014年ごろの主要都市に於ける地価のプラス転換の可能性は十分にありえると思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年7月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。