ヒッグス粒子発見と面倒くさい起業家たち

数日前から予告がありましたが、本日の各新聞の一面を飾ったのはヒッグス粒子の存在の確認、でした。ヒッグス粒子とは、50年ほど前に物理学者のヒッグスさんが存在を予言した素粒子(分子や原子をさらにばらして、コアである原子核をも分割していくと出てくる、すべての物質の最小単位のこと)で、物質に重さ(質量)を与えるきっかけになったと言われています。

最終的に本当にこの「神の粒子」と呼ばれる素粒子が存在するのかを断定するには、さらに年内かけて検証するとのことですが、まあ現時点で99.9998%とまで言っているのですから、まず間違いないことなのでしょう。

このヒッグス粒子が他の素粒子に影響を与えて質量を与えた理論については、正直物理学者でない僕には正確なところは分かりません^^; しかし、おおざっぱな理解で言うと、このヒッグス粒子は他の素粒子よりもはるかに重く、大きな質量を持っていて、これが宇宙の起源であるとされるビッグバンの後で宇宙全体を覆うように広がった結果、他の素粒子に影響を与えて彼らにも質量を与えることになった、というものです。

もう少し詳しく言うと、ヒッグス粒子以外の素粒子は、最初は質量を持たなかったということらしいです。従って光(光子)と同じ速度で宇宙を飛び回っていて、たくさんの種類の素粒子があっても互いに干渉せず、ぶつかっても軽すぎて(重さが無いから)軌道を変えてまた飛去っていたので、そこになんの”出会い”も”化学変化”も起きなかった。

ところが、ヒッグス粒子だけはやたら重くて動きが悪い。彼らが宇宙を満たした結果、他の粒子もヒッグス粒子にコツコツ当たったり、その重さのおかげでスピードを落としていく。結果としてなんどもまとわりつくようにぶつかりあっていくから徐々にうごきづらくなっていき、最後は他の素粒子とくっつきはじめてしまったらしい。光速で動けるのは質量がないからで、逆にいうと遅くなって動きが悪くなることは質量を持つということと同意です。

こうして他の素粒子も徐々に質量を持つようになり、その結果、ぶつかりあった素粒子同士が原子を作り分子を生み出し、やがて星や生命の基礎となった、というのが、この理論であり、ヒッグス粒子の存在確認が物理学上非常に重要だという意味になります。

さて。僕は、起業家です。どんな自然科学や生命の神秘であっても、雇用を生み社会を変えていく新しいスタートアップの発生や成長にひもづけて考えてしまう嫌な傾向があります(笑)。ヒッグス粒子の説明をTVでみながら、僕は起業家とはヒッグス粒子と同じだなと考えていました。最初から世界を変えようなんて思っているわけではないけれど、起業家は等しくなんらかの社会への不満足(不満とは言いません)や変革したいという想いを抱えています。想いは重いのです。そうした重さは起業家としての資質です。

何かを生み出そうと考える人は、ある意味面倒くさい人が多い。ややこしい想いを抱えている人が多いのです。その想いは生きていく上で結構邪魔で、重い気分を常にはらませます。その重さをなんらかのきっかけで晴らそうと思い、自身のアイデアと努力で解消しようと動き出す。それが事業であった場合、彼らを起業家と呼ぶのです。

つまり、起業家のようなめんどくさい人たちがいて、ヒッグス粒子のごとく、周囲に影響を与えて、やがて賛同者を得ていくと分子を作り星を作るように会社を作っていきます。他の人は元々の素粒子のごとく軽やかに生きていたかもしれないのに(笑)、何かを生み出したいという気分(質量)を与えていくのです。

日本はまだ、米国に比べると、この”ヒッグス粒子”が社会全体を覆っているとは言えないかもしれないですね。シリコンバレーのような起業粒子の濃度が高いエリアを恣意的に作っていく政策が必要かもしれません。

いずれにしても、重さがなければ物質は生まれず、星も無ければ生命も無い。何も無い、ただ何かが飛び回っているという無為な世界であったかもしれない。ある程度のめんどくささやしつこさがなければ、何も生まれないってことです。宗教家も政治家も起業家でも、そういう精神の質量を持って生まれた人たちだと言えるでしょう。

あなたは、周囲に何か影響を与える質量を持っているでしょうか。持っていると思えるなら、世紀の発見を前にして、自分から何かを生み出す第一歩を踏み出す時期であることを自覚するときかもしれませんね。

小川浩( @ogawakazuhiro )