アメリカのトップ1%と99%との格差

藤沢 数希

ウォール・ストリートを占拠せよデモ(Occupay Wall Street, OWS)は、今でもアメリカで散発している。反原発運動と同様に、彼らの主張は論理的に間違っているものが多いが、様々な重要な問題を提起しているのも事実だ。そのひとつはアメリカ国内での貧富の差である。自由市場経済、そして、それを世界規模で拡大していくグローバリゼーションは、標準的な経済理論に従えば、世界全体の富のパイを大きくし、底辺の者にも恩恵が行き渡るはずである。世界全体の富のパイを大きくしたという点で、それは実際にその通りだった。


しかし、多国籍企業の一部のエリートの報酬が大きく伸び、また、途上国の人々の生活水準も急速に改善したが、アメリカをはじめ、先進国の多くの労働者の生活水準の伸びはわずかな幅にとどまったのだ。先進国の多くの労働者にしてみれば、途上国の労働者からは追い上げられ、一握りのエリートの報酬がどんどん上がっていくので、当然、面白くない。なぜならば、人の幸福は絶対的なものではなく、多くの場合、他人との比較の上で感じられる相対的なものだからだ。


出所: Wealth, Income, and Power, G. William Domhoff

現在、アメリカでは上位1%が、約40%の金融資産を独占しており、これは2008年のリーマン・ショックまで拡大傾向にあった。また、CEOと従業員との格差もこの20年間、急速に拡大した。

アメリカのCEOの報酬と一般従業員の報酬の比

出所: Wealth, Income, and Power, G. William Domhoff

アメリカの企業では、ピークの時には、従業員とCEOで報酬に500倍ほどの格差があった。日本は、CEOの報酬が世界的に低く、10倍ほどの差しかない。東証一部上場企業の社長の平均年収はわずか3000万円程度だ。

ウォール・ストリートを占拠せよデモは、こういった現実に対する人々の怒りが現われたものだと言える。そして、こういったマジョリティの労働者の不満に答える形で、政治家が動き出している。ちなみに、ウォール・ストリートの金融機関は、規制・監督当局の怒りを買い、すでにCEOの報酬は数億円程度まで押し下げられている。ウォール・ストリートのCEOは、一足早く日本並の倍率になったわけだ。

良くも悪くも、いま、世界中で日本化が起こっているようである。