BPOはNHKの捏造番組を審査せよ

池田 信夫

ICRP日本委員のウェブサイトによれば、BPO(放送倫理・番組向上機構)は「低線量被ばく・揺らぐ国際基準」についてのICRP関係者からの提訴を却下したとのことだ。


これは私も昨年12月にブログで「BPOはNHKの捏造を調査せよ」と指摘し、ICRP委員のBPOへの提訴状も、ほぼそれと同じ捏造を指摘している。主要な問題は次の3点だ。

  • DDREF(線量・線量率効果係数)を勝手に「低線量リスク」と呼び替え、ICRPが低線量リスクを半分にしたと報じた。DDREFは国連科学委員会の報告で決まった係数であり、ICRPの決めたものではない。

  • ICRPが「1986年の原爆線量見直しによるリスク値の上昇に対抗するため、低線量リスクを低いまま据え置いた」と報じているが、ICRPは1977年の勧告でDDREFを2としており、被爆者調査の結果とは無関係である。1990年のICRP勧告では、平時の線量基準を年間5mSvから1mSvに規制強化した
  • ICRPのクレメント科学事務局長はNHKのインタビューに“they’re looking not just at the numerical value of the DDREF“と答えているが、字幕は「低線量のリスクを半分にしていることが本当に妥当なのか議論している」となっている。

要するに「ICRPが原子力産業の手先としてリスクの数値を甘く改竄した」という企画が間違っているのだ。このような番組の根幹部分についての訂正を、NHKが自主的に行なうことはむずかしい。今回のような特集番組については部長クラスが事前に試写を見ており、誤りを認めると責任問題になるからだ。

このためBPOが審査して勧告するのが普通だが、BPOは「英語の録音を変えたことについては、報道番組の編集の問題であり、 倫理に抵触するものではないと判断される。ゆえに本件は、審査対象にしない」と回答したという。審査もしないで、どうやって「判断」したのか。英語のインタビューの日本語訳を改竄したのは、「発掘!あるある大事典Ⅱ」で問題になったのと同じである。少なくとも審査してから判断すべきだ。

BPOは、番組内容をめぐる争いが政府の介入をまねかないように放送業界が自主的に設置した紛争処理機関なのに、機能していないのは残念だ。当事者が問題解決能力を失っているのなら、「JAPANデビュー」のように訴訟を起こすしかないだろう。