財務省発表の2012年上半期貿易統計(速報)

山口 巌

今朝、財務省が2012年上半期貿易統計(速報)を発表した。先月(5月)が貿易収支8,482億円の赤字であっただけに、気になっていたのは事実である。


結果は、前月の8,482億円の赤字から一転、617億円の黒字となり、月間で4カ月ぶりに黒字と言う喜ばしいものであった。しかしながら、問題は今後の動向である。7月、8月と黒字を積み増すのか、或いは6月は一過性の黒字であり、又、赤字に逆戻りするかである。

私は、大飯原発に雁行する形で早晩他の国内原発も順次再稼働するだろうし、随分と割高なスポットベースで購入した液化天然ガスも、通常の長期契約ベース に順次切り替わるであろうから、従来の貿易黒字に戻ると予測している。

結果、堅調な貿易黒字と月次で一兆円超の移転収支を享受する事となり、経常収支の黒字は間違いない。

誠に以て喜ばしい話であるが、諸手を挙げて歓迎出来るかと言えば疑問である。為替問題、詰まりは「円高」が更に進行し、国内製造業が苦境に陥る気がする。

ギリシャは別格として、イタリア、スペインと言った債務問題を抱える欧州はユーロ安を必要としており、今後もECBは金融緩和の継続以外に手段はない。一方、不況と失業率の高止まりに悩むアメリカも同様の金融政策を取らざるを得ない。結果、下記為替トレンドの継続は必至である。

急激な円高が進めば、毎度同じ事だが、財務大臣がテレビカメラの前で「断固たる処置を実行する」とかのコメントを発する訳であるが、実態は財務省への丸投げである。

結果、為替介入資金確保の為短期国債を発行し、欧米の協力、合意を得る事もなく単騎で円売り、ドル買いを行い、一時的な成果を得るのみである。当然の事ながら、手にしたドルはアメリカ国債購入に使われ、気が付けば巨額の為替差損と言うお粗末な事を性懲りもなく繰り返している訳である。

もうこの辺りで、「経常収支」の黒字は維持するものの、移転収支を不必要に膨張さす事無く、タイで稼いだ収益はベトナムに再投資し、更にベトナムの事業が成功すればミャンマーに再投資する様なスキームを確立し、円高に歯止めを掛けるべきではないか?

為替政策に就いて、今の様な無策を続ければ製造業は更に空洞化し、国内雇用問題が重篤化するのは避けられないと危惧する。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役