デジタルラジオは電波の無駄遣い

山田 肇

この1週間ほど、民放ラジオ局がデジタルラジオを2014年度に開始するという記事が、日本経済新聞に立て続けに掲載された。7月19日に開催された日本民間放送連盟理事会で正式決定したそうだが、会長会見をチェックすると「V-Lowマルチメディア放送の音声優先セグメントをアナログラジオの移行先として考え関係各方面との折衝を行っていく」と書かれている。日本経済新聞によれば、関係各方面とはNHKのことで、設備投資負担を協議するそうだ。

設備投資は1000億円必要だという。ラジオ局は負担できるのだろうか。情報メディア白書2012によれば、2010年度の民放ラジオ営業収入は総計1467億円しかない。2000年度には2505億円だったので10年で1000億円減少、つまり40%も市場が縮小しているのだ。そんな衰退産業が莫大な設備投資をするのは無謀である。


それでもなぜデジタルラジオに乗り出すのか。他の企業がV-Lowを始め聴取者を奪われるのを恐れているからとしか思えない。しかし、V-Low局はラジオを買い替えた家庭でしか聴取できないのに対して、デジタルラジオ導入後もアナログラジオ放送は継続される。

民放ラジオ局はインターネットサイマル放送にも乗り出している。民放ラジオ65局と放送大学が参加するRadikoは、月間ユニークユーザ数が1000万人を突破したそうだ。アナログ放送とインターネットサイマル放送でビジネスしている民放ラジオ局がV-Lowの免許を欲しがる必要はない。無理に免許を与えても聴取者がいなければ電波は無駄遣いされたことになる。総務省はV-Lowについて新たな活用方法を検討すべきである。

山田肇 -東洋大学経済学部-