珍しい、ピンク色のマロニエが咲いています。
丸ノ内。三菱一号館美術館「KATAGAMI STYLE」展に参りました。
奈良~江戸の型紙が19世紀末の欧米のアートに与えた影響を読み解く展示。
クールジャパン関係者必見です。感想を簡単に。
型紙。デザインし、彫り、刷り、服などの製品に仕立てるための「道具」です。作品として位置付けられず、埋もれてきました。
型紙は19世紀後半~20世紀初頭に何万点も海外に流出したことが調べで判っているそうです。
芸術作品ではないため輸出入目録に記録がなく、知られてこなかったのです。
そして型紙は西洋の美術館・博物館に大量に所蔵されていて、フロー面でもeBayでの出品はヤフオクの10倍にもなるといいます。
海外での評価が高いんですね。
幾枚もの型紙の超絶な細密デザインと、その製品への実装を目の当たりにすると息を飲みます。
江戸期の職人兼アーティストの技巧は、輸入した欧米が資本を投下して模倣しても、足下にも及ばない水準であることが一目瞭然。
表現と技術の結合です。
Art and Technology。
文化+ものづくり。
ソフト+ハード。
この総合力は日本の伝統的な強み。
型紙の職人は、それを一人で体現してきたわけです。
というより、近世以前、それらは一体だったんですよね。
Artという言葉にはTechnologyの意味も含まれていたことを改めて実感します。
ビジネスでも社会活動でもデザインの重要性が語られる今、改めてArtiste(芸術家)とArtisan(職人)の再融合が課題となるのではないでしょうか。
型紙職人は、自分のデザインに即した工具を自作します。自分が描くデザインどおりに紙を穿つ小刀をも自分で作るのです。
かつてMITメディアラボにいたジョン前田がCGでデザインするためのアプリを自作していました。彼は、自在に表現するにはツールから作るべきだと言っていました。
表現を道具から解放する。これは、日本のDNAなのでしょうか。
しかし、型紙の作者=職人は無名。記録がない。
でも、それを基にした欧米のデザインはアーティスト=著作者名つき。
日本の型紙はテキスタイル産業の「道具」であり、欧米のデザインは「作品」なのです。
ただし、欧米のデザインには、日本の表現への堂々たるパクリと、素直なレスペクトを見ることができます。
日本は無名の職人の表現・技術に相応のレスペクトを払っているでしょうか?
改めて型紙との連関を対比してみると、アールヌーヴォーに至っては、家具にしろ陶磁器にしろ照明器具にしろ、これほどまでに型紙に依存していたのかということに驚きます。
浮世絵などのアートよりも、型紙の紋様・表象や技法のほうが西洋の文化・産業に深く浸透しているのではないでしょうか。
それは型紙の無名性がもたらしたものかもしれません。
江戸時代のポップカルチャーであるデザインが、絵画、服飾、家具、陶磁器などに展開されたことを示す展示。
コンテンツをリアルビジネスに転化しようとするクールジャパン政策にヒントとなるはずです。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年7月26日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。また、掲載された展覧会『KATAGAMI STYLE』展は、2012年4月6日より東京(終了)・京都・三重で順次開催中です。