日本はもはやMICE振興を諦めろ --- 木曽 崇

アゴラ編集部

MICEとは、Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive(報奨旅行)、Convention(国際会議・学会)、Exhibition(展示会)の4つの頭文字をとった造語であり、このようなイベントに伴って人々が行なう観光行為のことをMICE観光と呼ぶ。MICE観光は一般のレジャー観光と異なり、顧客の消費額が大きく、また経済的な波及効果も高いことから、今後の振興が期待される観光分野。我が国では、観光庁が2010年を「ジャパンMICEイヤー」と名付け、それ以降、積極的なMICEの振興を測っている。


そのような状況の中で非常に申し訳ない主張ではあるのだが、本日のテーマは「日本はもはやMICE振興を諦めろ」という話題。ただし、そこには「もし、カジノ合法化をする気がないのならば…」という枕詞が付く。

MICE誘致、中でも世界の国や地方自治体が特に欲している大規模展示会や国際会議は、ますますカジノを合法とする国々にその開催が集中している。近年、世界ではMICE開催施設と併設で複合開発されたカジノリゾート(これを統合型リゾートと呼ぶ)が続々と建設されており、このような施設の存在が特に国際的に開かれる大規模イベントの誘致活動の場を席巻しているのである。

世界を席巻する統合型リゾートに対して、日本に現在存在するような単館開発されたMICE施設(例:東京ビックサイト)では、残念ながら到底太刀打ちできない幾つかの明確な理由がある。

1)価格競争に勝てない

大前提として、統合型リゾートとして開発されたMICE施設は往々にしてその施設利用料金の設定が安い。何故なら、MICE施設利用料を安く設定したとしても、レベニューソース(収益源)が複数あり、ホテル、レストラン、ショッピングセンター、その他アミューズメント施設など様々な事業部門に付随的に発生する収益でそれを賄うことが出来るからである。もちろん、その中でも最も大きな収益源として存在しているのがカジノ施設であり、その存在の有無はMICE施設の利用料金に確実に跳ね返る。逆にいえば、レベニューソースが少なく施設料金を引き下げながら他で回収するという戦略の取れない日本の単館開発のMICE施設は、このような統合型リゾートには到底価格競争で太刀打ち出来ない。

2)設備競争で勝てない

これは前項と関連するのだが複数のレベニューソースを持ち、また高い収益性を維持することの出来る統合型リゾートは設備投資資金が潤沢である。現在、大規模化の傾向がある様々なMICEイベントに対し、例えば1万人規模の顧客を一同に収容できる宴会場は我が国には存在しない。なぜならば、大きな設備投資をしても、その回収が難しいからだ。一方、世界の統合型リゾートの開発では、単館開発では実現できない大規模な施設開発が標準となっている。もちろん、大きさだけでなく、各種利用客の要望に応えた最新鋭の設備を導入する。日本の単館開発のMICE施設は、設備面でもこのような統合リゾートに到底太刀打ち出来ない。

3)イベント運営の利便性で勝てない

そして統合型リゾートの最大の強みは、文字通りMICE施設、レストラン、ホテル、その他のアミューズメント施設の全てが統合開発されている点にある。日本のような単館開発されたMICE施設では、宿泊先から会場、会場から市内レストランやその後に訪れるエンタメ施設などを結ぶ「参加者の足」が必ず必要となる。大規模な展示会などに参加した事のある方々はご存知のとおり、タクシー乗り場には長蛇の列が出来、公共交通機関は大混雑。このような施設でイベントを開催した場合、参加者誘導をするスタッフ、交通整理をするスタッフの配置はもとより、市内やホテルまでのシャトルバスの手配など、イベント主催者には様々な付随的な費用支払が求められる。

それに対して統合型リゾートでのイベント開催は、参加者を一旦会場に収容してしまえば、その後、イベント主催者の手を煩わす必要はない。ホテル、レストラン、その他アミューズメント施設がすべて統合された施設内に存在しているからだ。顧客の利便性は勿論のこと、イベント主催者にとっては余計な人員配置をする必要もなく、最小限のコストでイベントの運営に集中できる。イベント運営の利便性でも、日本のMICE施設では勝てない。

という事で、現在わが国は観光庁を中心としてMICE振興を必死で進めているのだが、残念ながら中途半端な振興策をどれだけ繰り返しても統合型リゾートを持つ国や地域と我が国の競争力は開くばかりである。これから日本が狙えるのは「日本で開催すること」に意義のある特別なイベント以外は、せいぜい小規模な企業ミーティングや報奨旅行のみ。逆立ちしても大規模な国際イベント誘致で戦うことは出来ないので、もはやMICE振興は諦めたほうが良い。

…ただし、以上はすべて「もし、カジノの合法化をするつもりがないのならば…」の話である。現在、民主党、自民党ではそれぞれ我が国におけるカジノ合法化の検討が進んでおり、各党の意思決定の最終段階にある。いよいよ我々の選択が迫られている。

木曽 崇
国際カジノ研究所 所長