東洋経済「リクルートの正体」の正体 人材「排出」企業との上手なつきあい方

常見 陽平


週刊 東洋経済 2012年 8/25号 [雑誌]
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先週の週刊東洋経済はリクルート特集だった。リクルート事件の贖罪、1兆円を超える借金の返済を経て、この度、持ち株会社と事業会社に組織を分け、上場を目指す同社に迫ったものだった。週刊東洋経済編集部と、リクルートの広報室の本気を感じる、よくまとまったものではあった。

しかし、この手のリクルートの特集を読む度、特に「人材輩出企業」という言われ方をする度に、いつも首をかしげるのだ。「輩出」じゃなくて、「排出」じゃないのか、と。現実をお伝えするとともに、来週以降、取引先として、あるいはプライベートで元リク&現役社員と付き合う上での処世術をお伝えすることにしよう。


■人材輩出企業、なのか?
もう1年半前に出た拙著『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書 2011)で検証したのだが、よく同社は「人材輩出企業」として取り上げられる。著名なOB・OGを多数輩出している、世の中と比べると早期に独立していく、輩出した人材の能力・意欲が高い(と少なくとも思われている)などだろう。

これは元々、独立心が旺盛な社員を採用している、以前は38歳での選択定年制があったなどによる部分も大きいだろう。日本企業並みから言うと珍しいわけで、何年かに1回、再評価されるわけである。

ただ、当たり前だが、退職していく社員の数から言うと、著名になる人、活躍している人などはごく一握りである。この特集で取り上げられていたOB・OG人脈図をみても、明らかに過去の人も多く、絶句した次第である。

拙著でもふれたが、元社員は同社だからこそ活躍できた人だらけであることも指摘しておく。商品力、組織風土、および上司・部下含め人材のレベルがそこそこ高いからこそ、上手くいっている人も多数。商品・サービスを売るのは上手だが、新しく創るのは恐ろしく苦手な方々でもある。

「若くして独立する会社」だと信じられているが、いまや八重洲の立派なビルにオフィスを構える会社になり、40代、50代で降格を繰り返そうが会社にしがみついている人もいることをふれておこう。そういう人が残ることができるのも多様性であり、豊かさなのだけど。

この特集は礼賛特集でも叩き特集でもなく、課題についても指摘していたので好感が持てたのだが、「人材輩出企業」と書かれることにいつも首をかしげるわけである。「排出」くらいでもいいのではないだろうか。

■「元リクルートのトップ営業マン」は何人いるのか?
もう1つ、これに関連してツッコミを入れておこう。

「元リクルートのトップ営業マンって何人いるのか?」

そう、社長のプロフィールを見ると「元リクルートのトップ営業マン」だらけなのだ。特にベンチャー企業のリクルーティング目的のセミナーでは「元リクルートのトップ営業マンが語る、成功の法則」みたいなタイトルでいっぱいである。

「お前、トップ営業マンだったのかよ?」とツッコミたくなることさえある。「元リクルートのトップ営業マン」を名乗る人は、50ヶ月連続達成というレベルから、瞬間風速的にそうだった人もいるわけだ。

次の基準で検証してみるといいだろう。

1.在籍していた時期と期間。
何年入社で何年退社したかを聞いておこう。時期によって採用人数や選考基準も違う。見ていた世界も違う。同社の社会的地位も違う。東洋経済の特集の年表と重ねて検証してみよう。

2.担当商品・サービス
時期によっては、イケイケドンドンで誰でも売れた時期、商品・サービスもあるわけだ。いくつかの事業部に在籍した場合は、どの時代にもっとも売れたのかもチェック。売れる人はどこにいっても売れるのだが、なかには商品・サービスが変われば鳴かず飛ばずの人も。

3.トップ営業マンだと言われる理由
最も大事。たいてい、MVPと言われる賞をとった回数、目標達成した回数、達成率、達成し続けた期間などで表現できるのだが。1回MVPをとったレベルで名乗っている人もいる。また、いつ頃トップ営業マンだったのかもチェック。若手の頃は気合いと根性で売れたりする。

4.営業武勇伝
単に数字を追っかけるだけのハイエナ状態の人は社内では評価されない。どんな画期的、革新的な仕事をしたのかはチェックするべき。

5.当時の周囲の評価
「周りの人は○○さんのことをどう評価していたと思いますか?」周囲との関係が分かる。4とも関連するが、尊敬されていたかどうかが分かる。

この手の質問によって、自称「元リクルートのトップ営業マン」の虚像は崩れていくだろう。

■元リク&現役社員との上手なつきあい方
ところで、昔も今も、リクルートと言えば営業力が強い会社だと言われている。そのしつこさに、疲れている人もいることだろう。取引先として、元リク&現役社員と上手に付き合う方法をお伝えしよう。

1.営業担当者のタイプ、スキルを理解し、育成する(合わない時には交代してもらう)
営業担当者によって提供できる価値の大きさはちがう。強みというか、クセを理解しておく。

なお、どうしても合わない場合は、担当変更をしてもらうのも手である。4月、10月は大きな人事異動や組織変更があり、担当顧客の変更があるので(S移動と言う)、その時期の前に言っておくのがコツ。つまり、今がチャンス。

2.積極的な情報提供を要求し、積極的に情報開示する
取得しているデータが豊富なのが、同社やそのOB・OGの会社の特徴。社内資料をつくるのにも便利なので、ここは可能な限りのデータの開示を求める。一方、現状、課題などできるだけデータ、ファクトを開示した方がいい提案を作ってもらいやすい。

3.「偉い人」同士の接点をつくる
もし担当がイマイチでも、管理職以上はそれなり。上同士の接点を作っておくと、何かと便利。

4.常に新しい提案を求め、「健全な無理難題」を言う
こちらから提案を求めるのがポイント。効果が出ていない、使いづらい、この広告掲載規定はどうかなど、要望は常に言うべき。

5.目標と測定指標を明確にし、一緒に振り返りをする
やりっぱなしにしてはいけない。データを元に当初の目的が達成できたかの振り返りをする。価値に対して価格が適切かも確認。昨年と同じ提案、価値が変わらない提案なら、値引きして欲しいと要望するのも手。実際に値引きができなくても、適度な緊張感を持ってもらえる。

当たり前のことのようで、行なっていない例をよく見かける。商売する上では当然だ。

長々と徒然なるままに書き連ねてしまった。

同社もグローバル化の推進、上場という新しいステージに向かおうとしている。

期待する一方で、同社が未だに先進企業として取り上げられることに、同社の強さと、我が国の貧しさを感じた次第だ。サイバーエージェントを始め、同社の影響を受けつつもすぐれたマネジメントを行なっている企業は多数存在する。

虚像にしがみつかず、現実を虚心に直視したい。