ことの始まりは、ゲームジャーナリストの新清士氏による日経記事にあります。
「ドラクエ10」揺るがす重大課題 基本機能を賭博に使うプレーヤー
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2801Y_Y2A820C1000000/
スクエア・エニクスが提供する人気のオンラインゲーム「ドラクエ10」の中で、プレイヤーに提供されているダイス機能を使ったバーチャル賭博がゲーム内で横行しているという記事。賭けられているのはドラクエの世界で使用される通貨「ゴールド」なワケですが、これが一方で横行しているバーチャルアイテムの現金売買行為(RMT: リアルマネートレード)と結びついた場合、賭博罪に問われる可能性があるとの指摘です。
これに真っ先に反応したのが株式市場。8月29日の日経新聞電子版でこれが報じられた翌日の8月30日にスクエニ株は下落しはじめ、ドラクエ10の好評を受けて上がり続け1,360円台を付けていた株価は一時、1260円台にまで下落しました。
スクウェアエニックス「ドラクエ10」の「ダイス」機能が賭博に使われていると報じられ、株価下落
http://www.nsjournal.jp/news/news_detail.php?id=309533
この株価急落を受けて慌てて動いたのがスクエア・エニクス。「同社が賭博罪・賭博開帳図利罪に問われる可能性はない」という発表を行なったというのが、現在までの経緯であります。
ドラクエX“ダイス賭博”指摘にスク・エニが見解
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1208/30/news111.html
賭博の専門家たる私の見解としましても、言うまでもなくドラクエの世界内で行なわれているプレイヤー間のバーチャル賭博行為によって、胴元でもなければプレイヤーでもないスクエアエニクスが賭博罪および賭博開帳図利罪を問われる可能性はゼロです。正直、こんなことは当り前すぎる話ではあるのですが、株式市場が日経の報道を真に受けて、ナナメ上の反応を見せていたこともあり、スクエアエニクスとしては止む無くその当り前の見解を当り前に発表せざるを得なかったということでしょう。但し、これでスクエニに全くリスクが無くなったのかと言われれば、実はそうではありませんで、プレイヤー間で行なわれている賭博行為をシステム的に幇助したという「幇助罪」が成立する可能性はゼロとはいえないというのが現状です。ただし、その前提としてプレイヤーに賭博罪、もしくは賭博開帳図利罪が成立する必要があります。
となると、本丸はやはりゲーム内でのバーチャル賭博行為に現実の世界の賭博罪が適用され得るかというお話になるわけですが、幾つかの検討事項が必要になるでしょうね。最大の焦点は、ゲーム内通貨が刑法185条の賭博罪の禁止する「偶然の勝敗によって、財物・財産上の利益の得喪を2人以上の者が争う行為」にあたるかどうかにあります。ゲーム内通貨は現金ではないですが、もしコレが商法上で定められる「有価証券」にあたるものと判断される場合には、これら行為に賭博罪が適用される可能性がグッと高まります。(但し、今のところの金融庁の解釈ではゲーム内通貨は有価証券にはあたらないものとされています。)
例えゲーム内通貨が有価証券にあたらなかったとしても、これら行為に賭博罪が適用される可能性は否定できません。何故なら、賭博罪の成立は現金および有価証券だけではなく、「財物・財産上の利益」にあたるものを賭けた場合でも成立するからです。すなわち、ゲーム内で提供されているデータとしてのバーチャル通貨(別にデジタルアイテムでも良いですが)が「財物・財産上の利益」にあたれば、プレイヤー間のバーチャル賭博は賭博罪となりうる。この辺りの判断となると、私としても確定した答えを今のところ出せていないという非常に微妙な世界となってきます。
また、この他にも幾つかの検討しなければならない要素はあるのですが、少なくとも現在ドラクエの世界内で行なわれているバーチャル賭博に対して、スクエニが全くリスクが無い状態にあるか?と問われれば、私としては「リスクはゼロではない」とお答えをせざるを得ない状況であります。
1 木曽 崇
国際カジノ研究所 所長