今年に入り、ロンドンオリンピック開催中の8月10日、韓国の李明博大統領が日本固有の領土である竹島に上陸した。翌日サッカー男子3位決定戦後に韓国チームの朴鍾佑選手が、「独島(竹島の韓国側呼称)は韓国領土である」と主張するプラカードを掲げた。そして、李明博氏は、8月14日に天皇陛下の訪韓に関して「心から謝罪するならば来なさい」と発言した。この韓国の姿勢に我慢ができず、翌8月15日には「終戦記念に日韓関係を思う~竹島上陸・天皇陛下への非礼な発言を受けて」という意見をまとめ、ブログで公表した。
双方の事態で気がついたことは、「財界や政治家リーダーがあまりにも発言しない」という事実である。原発においては、財界では経団連の米倉弘昌会長以外からは発言が聞こえてこないし、政治家では安倍晋三元首相や民主党の近藤洋介衆議院議員など一部の意識が高い方以外は、選挙を恐れてか、ほとんど発言しないのが実情だった。まさに孤軍奮闘の気持ちであった。誰も発言しない状況だったからこそ、僕はあえて進んで発言することにした。同様に領土問題でも、韓国や中国との関係性を重視してか、財界からは声がさほど上がらなかった。
「同じ次元で争わない方がいい」、「言わせておけばいい」という声をよく聞く。一見大人びた発言でもっともらしく聞こえるが、何の問題解決にならないどころか、事態を悪化させることにもなる。「何も言わない」ということは、国際社会では相手の主張を認めたことを意味する。こちらが主張しなければ、相手はどんどんつけ込んでくる。甘い対応をしていたら「やった者勝ち」になってしまう。無理を通せば道理が引っ込んでしまうのだ。
僕は、韓国人や中国人を含め数多くの友人と議論をしてきた。信頼を得る一番良い方法は、自分が正しいと信じることを言い、正当に議論することである。相手の感情を害することを恐れて、何も言わない、あるいはヘラヘラと笑い迎合することは、蔑まされることはあっても、決して尊敬を得ることはない。どんな立場であろうが、見識を持った一人格者として意見を主張することが求められるのだ。武士は、理不尽に名誉と誇りを傷つけられたら必ず相応の行動を取った。正しいと思うことを主張しないのは、日本古来からの美徳でも何でもなく、「意気地無し」なだけなのである。
僕が、原発の必要性を主張したことに対する反原発派の反発は凄まじいものがあった。実家に反対派が押し寄せ、警察を呼んだこともあった。嫌がらせの電話や誹謗中傷も増えた。社員たちにも嫌な思いをさせた。しかし、圧力に屈して黙ってしまったら相手を利するだけである。その結果、日本が間違った方向に進んだら、後世の人々に何と言って詫びればいいのだろうか。
幸い、双方の議論・主張直後から続々と反響が寄せられ、「勇気のある発言に感謝」「誰も声を上げようとしない時にあえて発言する姿勢に感銘した」といった言葉を数多く頂戴した。
「弱腰外交」と批判されてきた日本政府を動かしたのは、多くの日本人が正しいと思うことを発言したからだと思う。だが、まだ足りない。原発に関しては、与党民主党は選挙を恐れてか、事も有ろうに「原発ゼロ」を主張している。原発ゼロになれば、電力料金は倍増し、経済は打撃を受け、雇用が喪失する。壊滅的な不可逆的な事態となる。
僕は決めたのだ。ボコボコにされてもかまわない、日本を良くするために子供達や後世の日本人のためにも、信念に従い正しいことを言い続けると。良識を持ったリーダーたちが勇気を持ちもっと発言する必要がある。そして、日本のためにも賛同者の声を大きくしていくことが望まれるのだ。
堀 義人(ほり・よしと)
グロービス経営大学院 学長
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。
住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ(G C P))設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任し、自ら「企業家リーダーシップ」科目の講師として教鞭をとる。
若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur’s Organization現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事、日本プライベート・エクイティ協会理事を務める。
著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)、『ケースで学ぶ起業戦略』(日経BP社)、『ベンチャー経営革命』(日経BP社)等がある。