世界経済をめぐる米中の動向を探る --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

来週12日~13日に予定されているアメリカFOMCで景気減速傾向に対応するため、長く待ち続けてきた金融緩和をいよいよ行うのではないかという見方が強まってきています。これはどちらかというと市場からの催促状況にあり、前回のFOMCの議事録でその必要をある程度肯定していることが明らかになり、いよいよそれが近いのではないか、と見られていました。


そして、先週のバーナンキ議長のジャクソンホールでの講演で雇用が弱含んでいることに懸念を示し、緩和の可能性を否定しなかったことから、7日のアメリカ雇用統計の結果が大きな判断材料になるとみられていました。私もそのときのブログで8月の雇用の純増が15万人を越えるかどうかが一つの節目ということを記載いたしました。

蓋を開ければ市場予想をはるかに下回る96千人増に留まり、それを受けて金融緩和の期待は大きく膨れ上がっています。事実、金融緩和でメリットのある金はその発表直後から大きく上げ、スポットで金曜日のNY時間午後2時半で1742ドルをつけている状態です。

さて、市場の期待通り金融緩和は行われるのでしょうか?

私は基本的に否定的な見方でここまできています。理由は再三申し上げているように12月の「財政の崖」の問題のほうがはるかに大きく、著名な悲観論者ニューヨーク大学ヌリエルルービニ教授はアメリカの年末、年始の景気動向についてぼろくそに書いています。私はルービニ教授ほど刺激的なことは書けませんが、トロントのTorjaの9月号にも寄稿しましたとおりこの財政の崖は大統領選挙の日程、クリスマスを控えること、議会は1月からであることなどを考えると一時的に減税法案が失効し、支出削減が一気に出てくるという最悪の状態がないとも限りません。

その場合、雇用に一気に影響するためバーナンキ議長が懸念する雇用の悪化に繋がる可能性は大いにあるのです。つまり、年末の議会の混乱を想定し、最大の武器は今回は温存しておきたいのではないかと思います。事実アメリカの一部の経済指標、特に消費関連の好調さは減税などがキックインしているから賃金の低下を通して所得の伸びはなく、来年の春は確かに苦しい状況が想定されます。

一方、市場の金融緩和に対する今回の期待は尋常ではなく、ECB、イギリス、オーストラリア、カナダなど主要国は全て低金利を維持したことからアメリカとしては低金利政策を更に延長するといった形の発表で折衷させるのではないかと思っています。つまり、市場の期待が余りにも高いため、ここで失望させると市場に相当大きな影響が出ることを勘案し、金融緩和はしないが低金利政策は継続するというアナウンスに留め、お楽しみはもう少し先、11月ぐらいまでとっておくという気がいたします。

このアメリカのニュースの影に隠れて余り目立たなかったのですが中国が12兆円規模の公共投資を認可しそうだという7日の報道のほうがむしろ大きなニュースだったのではないでしょうか。これは中国の景気減速が明白であり、ここで対策を打たないと失速する懸念があったためでこれを受けて資源価格が跳ね上がるという構図になっています。世界経済を語る上で中国の動向はいまや、余りにも大きな影響を持つため、中国発のポジティブなニュースは良好な流れを作り出します。

いづれにせよ、異様に盛り上がる市場の期待は13日の午後には判明するでしょう。私は市場がある程度活性化するほうが経済的には良好な状況を作り出すと思っておりますので全否定はないかも知れませんね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年9月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。