中央大学付属中学の情実入試騒動は、(大学から幼稚園まで併設されている)某学校法人の内部通報窓口を担当している私にとっても他人事ではございません。まだ当ブログでコメントを述べるほど事実関係がはっきりしておりませんが、こういった情実入試の不正が、おそらく中学側からの内部通報によって大学の知るところとなったことは間違いないようです。
人間関係が錯綜しているなかで、内部通報制度がきちんと整備されてしまいますと、今まで表面化していなかった不正事実が世に出ることは当然のことであります。このあたりの内部通報リスクに関する認識の甘さ、そしてマスコミに知れる最大のポイントになったステークホルダー(ここでは行政当局→神奈川県)への対応の甘さというものは、まさに企業の自浄能力を語るときにも参考になるところであります。そういえば昨日の記者会見においても、中央大学の学長さんが、「大学の自浄作用を発揮するためには、入学を取り消すしか方法がなかった」と弁明されておられます。
このように最近は広く使われるようになった自浄能力(自浄作用)という言葉ですが、一般的には「自浄能力」とは、不祥事が発生した場合、これを自分で見つけて、自分で調査して、自分で公表して、自分で関係者を処分する、という一連の不祥事対応能力のことを指します。たとえば第三者委員会による事実調査や責任判断というものも、企業行動の公正を期すために専門家の支援を受けるわけでして、これも自浄能力の発揮場面に含まれます。
以下では、支配権争いに株主代表訴訟が活用されるような中小の株式会社ではなく、株主が多数存在する大企業を念頭に置いたお話ですが、企業が自浄能力を発揮するようなケースというのは、マスコミから大きく報道されることを防ぐことに留まらず、役員のリーガルリスクを低減させることにもつながるものであることがわかります。もちろん不祥事が発生し、マスコミから大きく取り上げられ、企業の社会的信用が大きく毀損された場合には、株主代表訴訟が提起されることになりますが、大きな不祥事が発生したとしても、これを自浄能力を発揮して信用回復に尽力した企業に対しては、ほとんど代表訴訟が提起されておりません。
上図は、これまで社会的にも大きな話題となりました企業不祥事による株主代表訴訟や株主による第三者責任追及訴訟と、その訴訟で問題とされた不祥事が発覚した原因事実を対比したものです。とりあえず著名なものだけ掲げておりますが、この発覚原因をみるかぎり、自浄能力を発揮したにもかかわらず、役員が代表訴訟を提起された、というものは見当たりません(なお、シャルレのMBO代表訴訟については、内部通報が発端となった事件に関するものですが、これも取締役の利益相反行為が社員によって暴かれたものとして自浄能力が発揮されたものとは言い難いように思われます)。もちろん株主代表訴訟を提起することは、株主の任意であり、役員の責任追及を妥当と考えれば自由に提訴することができます。やはり経営陣のコンプライアンス意識が希薄である、という印象は、不祥事を隠したり、経営者自身が関与していたり、知りながら長年放置している、といった事情が明確になるときに株主一般に認識されることになり、これが代表訴訟提起のインセンティブになるものと思われます。
そもそも企業不祥事発生時において、その自浄能力を問題とするのは、企業自身の信用回復の可能性を世に示すことにあるわけですが、事実上個々の取締役・監査役の訴訟リスクにも関わるものであると思われます。
編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年9月28日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。※編集部中:リニエンシーとは処分軽減のこと。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。