今は政党乱立の混戦模様ですが、やがて一本化の動きが加速してくるものと思います。これまでの選挙との違いはホットな党首討論が期待できそうなところで、それが政治の深化につながっていくことを望みます。
ただ、国民にはわかりづらい政策論争も含まれてくるために、気をつけなければならないことがあります。各党首が国民にわかりやすい主張ができるのか、共感を得ることができるかの力量がためされるのですが、問題は言葉の中味、政策の中味です。スローガンだけで政策の中味がないものはカムフラージュにすぎません。また同じ経済対策といっても、政策内容でまったく異なってきます。特に、それぞれの主張が事実にもとづいたものかどうかが重要になってきます。
さっそく昨日の報道番組でも、野田総理と安倍総裁が登場して論戦模様となってきました。しかし、番組を見ていて気になったのは、各党首の言葉に対する「事実確認」の機能が今のメディアは弱いことです。安倍総裁は最初から日銀に国債を直接引き取らせるとは発言しておらず、その後に日銀の通常の買いオペだと発言を変えたというのはマスコミ報道の誤報だったことは、昨日には判明していたことだったはずです。それを野田総理が指摘したことも「事実誤認」だったのではないでしょうか。
外交に対する野田総理への安倍総裁の批判は納得できるものを感じますが、しかし、安倍総裁は、安倍内閣当時のイメージダウンを払拭したいためか、安部内閣の成果をアピールしようと、民主党政権に移って日本経済が駄目になったということを強調されていましたが、ちょっと視聴者をミスリードしかねない内容だと感じます。
確かに、GDPの推移をグラフだけを見ればそのとおりですが、しかし忘れてはならないのは、その後に、2008年にはリーマンショックが起こりました。また2010年に起こったギリシャの債務問題から、欧州経済危機へと広がってきていることもあります。さらに、東日本大震災という未曽有の災害、福島第一原発事故、またタイ洪水による影響など、日本経済に深刻な打撃を与える出来事がありました。
民主党内閣となったから日本経済が駄目になったという単純な説明ではフェアではありません。安部内閣がもし続いていたら、どう対処してきたのか、金融緩和でGDPがそのまま上昇し続けたのかは不明です。いやそれはちょっと考えられません。
またエルピーダメモリーの破綻も、安倍総理は、円高で破綻したような主張でしたが、確かに円高も大きな要因としてあったとしても、それなら製造拠点を海外に移転すれば解決できたはずです。むしろ開発戦略で敗れたこと、品質、とくに耐用年数を重視し過ぎ、高コスト体質に陥ってしまい、世界の水平分業化の流れに乗れなかった要因も大きかったというのが事実ではないでしょうか。円高であろうが、円安であろうが、情報家電も含め世界の変化に対応できなかったことのほうが今の日本の産業にとっては大きな反省点だったはずです。円高に原因を求めるのはわかりやすくとも、それは間違った政策に誘導しかねません。
エルピーダメモリ破綻の根本に潜む原因は何か!?|清話会 :
おそらく、今日の激しく変化してきた世界のなかで、各党首の発言のすべての「事実確認」を行なうことは、キャスターや出演しているコメンテーターの能力を超えてしまっていることは無理からぬことかもしれません。
しかしいったんマス・メディアに流れるとその影響は大きく、だから米大統領選では、オバマ大統領やロムニー候補の発言やCMが事実にあっているかどうかをチェックし、マスコミにも情報提供する良心的なマスコミOBや研究者を中心に組織された非営利団体が生まれ、FactCheckというサイトでその役割を果たしてきました。
FactCheck.org | A Project of the Annenberg Public Policy Center :
日本ではその機能は主にインターネットの論壇が一部を担い始めていますが、個人の情報発信にとどまっていること、また各政党支持者からのノイズも多く限界を感じます。各メディアが事実確認のために、識者のパネルのネットワークをつくり、ネットと連携すれば、即時性もあり、かなり改善されると思うので、ぜひ各メディアにはそういった体制を組んでもらいたいものです。これは各番組の信頼性を高めるので、各メディア間の差別化にもつながってきます。
ビジネスでは思い込みではなく、事実にもとづいた意思決定が重要とされ、ファクト・ファインディングが重視されるようになってきましたが、政治の世界も同じです。これまでも書いてきましたが、古い思想やそれに基づいた思い込みでは、今日の新しい現実に対応できないのでなおさらです。
日本が経済停滞から脱出するためには、安定した政権や政策の継続性が大切になってきていると思います。そのためにも、ただの人気取りの政策、あるいは事実を歪曲した自己アピールの不毛な論戦は望ましくありません。実りのある総選挙にするためにも、それぞれの党首の発言やマスコミ報道に対する監視の目が育ってくることを期待します。またブログの論壇に参加されている方々にもぜひその役割を担っていただきたいものです。