日経新聞によると衆議院解散ニュースが市場に反映される直前の11月14日から日経平均が1万円をつけた12月19日まででもっとも上昇率が高かったのがシャープの88.3%で二番目が東電の85.5%だそうです。この両社が上昇率のダントツトップなのですが、東電が上がった理由は十分すぎるぐらい理解できます。枝野ー東電戦争からの解放、更には自民党の原子力発電に対する現実的ポジションと柏崎原発の再稼動への期待が膨らんだということであります。更には安倍総裁が21日に民主党の原発政策を見直すと発言していることから東電についてはまだ夢が残っています。
さて、シャープのほうですが、私はどうしても理解できません。このブログでは過去数回、折に触れてシャープのことを書かせていただいています。そのトーンは一貫してぶれることなく次の要点に絞ってきたはずです。
- 台湾の鴻海の出資予定規模は500~600億円程度でシャープの必要としている資金をはるかに下回る。
- 鴻海は大阪堺工場を別枠でゲットしており、それが主目的であったし、事実、鴻海傘下になってから稼働率は驚くほど上昇、鴻海側も最新施設を入手できたことに素直に喜んでいる。
- 中国人の割り切り感と郭台銘会長のしたたかさを考えればシャープは鴻海に出資比率9.9%で身売りに近いことをすべきではない。
- 日本銀行団はそれに反して鴻海との提携を融資、支援の前提とした。
ここで改めて考えなくてはいけないのは銀行団がなぜシャープに鴻海との提携を強いているのかということです。思うに日本の電機業界では独立独歩を歩んできた同社にとっていまや、国内家電に「お友達はいない」だから、世界の家電製造業を代表する鴻海と連携することで工場の稼働率を上げ、ひいてはV字回復を目指すということかと思います。
国内家電はたとえば、ソニー、東芝、日立が設立したジャパンディスプレーが液晶ディスプレーでは世界一のシェアを誇ります。これに対してシャープは単独で追いかける構造となっています。かつてシャープには国内家電から特定分野で何度かお見合いの話が持ち込まれていましたが全部だめになっています。理由はシャープの社内に強い自負があったと思っています。この点において社内の体質がオリンパスに似たところがあり、技術者がそのプライドをもちすぎていることで経営のフレキシビリティが出なくなっていると見た方が良いかと思います。日本人特有の頑固さとでもいいましょうか。
一方でしたたかな郭台銘会長は出資条件は来年3月までに決着をつけるという異常な条件を突きつけます。その間、株価は600円台から150円割れまで一気に下げ、出資条件をめぐり再交渉となってしまったのです。この時間稼ぎは鴻海側のプランであったし、私は今でも鴻海は倒産価格か格安で会社をのっとるつもりだと思っています。よって、この株価上昇は鴻海側にとってはあまりおいしい話ではないはずです。
一方、株価が急上昇した背景はアメリカクアルコムから100億円程度の出資を取り付けるというニュースがバックグラウンドにあります。クアルコムはもともと特定業者との取引を好まないとされていた中でよくそれを乗り越えたな、という気はいたします。ですが、たかが100億円です。むしろ、この100億円が邪魔になる公算が将来無きにしも非ずだという気もします。
ではシャープはどうなるのでしょうか? 私はこの会社は潰れないと思っています。それは潰すことで日本の技術が流出する可能性が出てくるからです。それはマイコンのルネサスに日本の自動車業界が中心となって出資した経緯を考えれば参考になるかと思います。アメリカ投資ファンドKKRからその倍の金額を出資することで奪い取ったその流れは強烈な印象となりました。
潰さない手法ですが、法的に難しいかもしれませんがジャパンディスプレーに液晶を参画させた上で、目立たないけど比較的強いシャープの白物家電に注力するのも手かもしれません。
シャープの奥田社長は思い切った発想の転換に迫られています。ここは既存の手法をいったん封印してまったく別の見地からアプローチすべきかと思います。年が変われば鴻海との最終決着へゴングの鐘がなります。日本を代表する典型的日本企業は果たして再生出来るのでしょうか? 少なくともこの数日の株価のゆれは投資家の心理を表しているようにも思えます。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年12月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。