人はどのくらい特殊なチンパンジーか続き

田村 耕太郎

人類はチンパンジーの一種に過ぎないという話の続編。個体を70億という莫大な数まで増加させることに成功した人類と全盛期に比べ数を減らしてしまったチンパンジー含めた類人猿との差はどこにあったのか?それは「肉食化」と「おばあさん」にあったのだ。

人間とチンパンジー以外の類人猿は果物しか食べない。類人猿は、まだ地球が湿潤で森が豊かな時代に果実食に特化して繁栄した種だ。人類は森林が後退した環境の中で、アフリカ等、サバンナ的な環境にも適応すべく、リスクを取った種だ。そのため果物以外を食べるため、狩猟し肉食に変化。どんな動物でも、多くの敵から身を守るために草原に出ると集団は大きくなる。集団化した動物の中でオスが共謀して狩りができるのは人間とチンパンジーのみ。チンパンジーは連係プレーで他の猿をハンティングして食べる。

チンパンジーと人間でも肉食の違いはある。人間の方が圧倒的に肉食だ。チンパンジーの主食は果実やナッツ。肉食といっても、多くて全食事の3%くらいだ。カロリーも栄養価も高い肉食だが、そのためには狩猟と加工がいる。果実は手で取って直食いできるが、肉は集団で作戦を立ててリスクを取らないと食べられない。そもそも肉食獣でない類人猿が多くの肉を消化するには加工も必要となる。いわゆる調理である。調理ができるのも人間だけである。

ヒトの食べ物は狩猟と調理が必要な難しい食べ物だが、このヒトの食べ物はヒトの脳を発達させる貴重な食べ物。なぜなら脳は燃費が悪いからだ。脳の重さは身体の2%くらいに過ぎないのに、代謝量は全身の20%を占める。他の臓器や筋肉の10倍燃費が悪い。それは脳の機能にある。脳は通常の筋肉と違い、複雑な化学的な反応をともなう活動をしている。多様で多くの化学物質や伝達物質を生産しないといけない。維持し成長をさせるためには、多くのエネルギーが必要なのだ。

繰り返すが、森林からより強敵やリスクが多い平地(サバンナ)に出てくると、生物の集団は巨大化する傾向が強い。発達した脳とその集団力を活用して人間は狩猟をし、肉食化を進め、その脳に必要な栄養を取るようになった。その過程で、調理という技能も獲得した。集団による狩猟と調理が、ニワトリと卵の関係で、脳にエネルギーを送り続けた。

その集団の中で、人間とチンパンジーの違いは、女性の協力にある。チンパンジーでは、オスは協力するがメスはあまりしない。人間では、女性で子守や調理を協力する。特に人間は集団で子育てをする。それで女性同士のきずなを深める。いわゆる共同繁殖である。これが人類の人口を増殖させた。一方の類人猿は人口減少している。協力的な意味で、相手の気持ちを察するのは人間だけ。チンパンジー も相手の気持ちを推察できるが、それは主に相手を出し抜くため。類人猿の親は積極的に子供に教育はしない。子供がまねをするだけ。人間は子供の教育に親が積極的に口出しする。

最も顕著な違いは類人類では「おばあさん」期があるのはヒトのみ。繁殖終了後に40年近く長生きする生物はいない。ゴリラも45歳くらいまでに出産してすぐ死ぬ。ヒトは寿命が長く、繁殖開始年が遅い。子供期や思春期が長いのも人類の特徴。子供期の長さと脳の大きさに相関はある。脳はゆっくりと成長するほど大きくなる。

正確に言えば、象やくじらにもおばあさん期があるが、子育てを支援するのは人間のおばあさんのみ。おばあさんのおかげで人類は子孫繁栄できている。自分はもう生まないが孫を増やす戦略というわけだ。

チンパンジーの子は、5歳で独り立ちできる。ヒトは20年くらいかかる。こんなに独り立ちするのが遅い生物はいない。歩くまで一年以上かかるのも人間のみ。共同生活でそのエネルギーを補給するのがヒトの戦略だ。子供が20年近く一方的な受益者になるのはヒトだけ。これを育てるにはおばあさんの力が大きい。おばあさんを活用した共同繁殖が人類を増やしてきたのだ。

長谷川教授の「おばあさん人類繁栄説」にはおばあちゃん子だった私は素直に納得できた。脳を発達させる戦略で全大陸で合計70億を超える個体を生み出し、繁栄できた人類。これだけ大きい社会と複雑な文明を作り上げたことが長い目でみてベストな選択だったのか?私はそう思いたいが、長谷川教授は私ほど人類の将来について楽観的ではなかった。それが最も印象的であった。