古今東西、バブル経済の主役を演じるのが不動産である。企業も個人も固定資産の大部分を不動産が占め、土地・家屋は究極の耐久消費財でもある。不動産をどう扱うかによって企業業績や家計が大きく変化し、失敗すれば倒産・破産の危機を起こす。
私は自分の専門分野についてはアゴラに投稿するのを避けてきたが、「麻生財政」に変わって、にわかに不動産バブルが議論され始めたため、不動産の価格変動の基礎構造、なぜ不動産にはバブルがつきものなのかを、簡単に述べたい※1。
不動産の価格は、一般消費財のそれよりも振幅が大きく、長いスパンで変動する。不動産開発は、企画から設計、工事完成まで長い期間を要し、プロジェクトによっては計画から完成まで5年以上かかるものもある。比較的短期のマンション分譲でも、用地の仕入交渉から完成まで短くて1年、長くて3年ほどかかるため、計画を立案した時点で売れ行きが好調でも、完成した時点では全く売れなくなっている、ということが十分考えられる。その逆もしかりである。
不動産価格に、8年~12年周期説というものがある。
不動産というものは、その時点での価格が適正であるかはともかくとして、需要量は常に上向いていると考える。人口が減ろうが所得が減ろうが、人類の「空間」に対する飽くなき欲望がある限り、不動産という「空間」の需要は常に増え続ける。人間の胃袋が増えない限り食糧の需要が増えないのとは異なり、「より広い家に住みたい」「もう一軒家が欲しい」など、不動産の需要は、量としては常に増え続ける。
一方、不動産の供給量は乱高下する。不動産のプロジェクトは、一旦始めてしまったらすぐに止めることができない。工業製品であれば、価格が下落局面にあるときには供給がダブついていると判断し、生産調整をして在庫を減らそうとするが、不動産の場合、仕入れてしまった土地は返却できず、建設工事を途中で止めることも容易でなく、一旦始めたプロジェクトは資金繰りなどの問題が発生しない限り完成させなければならない。建物や造成宅地は、工業製品のような柔軟な生産調整ができない。
不動産価格の上昇期には新規のプロジェクトが次々と開始され、不動産の供給量が2~3年間後に急増する。供給が需要を上回ったときに価格上昇が緩やかになるが、価格が下落に転じたとしてもすぐに供給を減らすことができない。価格が下落に転じてから2~3年経って初めて需給が均衡する。需給が均衡すると価格は上昇を始めるが、価格上昇が始まってもすぐに供給を増やすことはできず(計画から完成まで期間を要するため)、2~3年間は供給過少の状況が続くため価格は上昇し続ける。
このようなサイクルを繰り返す結果、不動産の価格は2~3年×4=8~12年周期で急騰と急落を繰り返す。一定の周期でバブルを起こすのは、不動産の「宿命」である。
図1は(一財)日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」と名目GDP、マネー量を比較したものである。総量で比較するするとわかりにくいので、変化率で比較したものが図2である。
実数では深い関係はないが、変化率で見ると強い相関がある。市街地価格指数の変化率と名目GDP成長率との相関係数は80.7%、マネーストック変化率との相関は85.2%である。
図3は市街地価格指数の変化率と名目GDP成長率の差を(※2)を、スムージングして表わしたものである。前述の「8年~12年周期説」を概ね裏付けている。不動産価格が「底値」を打っているのは、全て不況期である。
そう考えると不動産開発は、不況期に新規計画を行い、好況期に新規の計画をやめる、というのがベストということになる。しかしこれは、株主や銀行家の思考とは逆のことをしろ、というものだから(すなわち「究極の逆張り戦略」)、言うほど簡単ではない。不動産開発は多額の資金を要するから、資金調達がプロジェクト実行の可否を左右するが、不況期に借入や増資を行い、好況期に借入を返済し投資を抑制するというのは、世間の「空気」に背いて行動しろということだから、株主や金融機関を説得することが非常に難しい。
また、不動産の取得を全額自己資金で行うことは困難だから、個人も企業も不動産に係る限り、掛けたくもないレバレッジを掛けなければならない。したがって、不動産が実体経済の景況を増幅させる(詳しくは「清滝ムーアモデル」を参照)。
このように不動産は、常にバブルとバブル崩壊の主役となり実体経済を振り回す。「ニッポンのものづくり」にとって不動産は脇役だが、脇役のはずの不動産がバブル期には「財テクブーム」の主役、バブル崩壊後には「バランスシート不況」の主役となった。これは不動産関係者が悪いからではなく、不動産とはそういうものなのである。不動産がバブルを起こすことは宿命なのだから、それが人々の幸不幸を左右することのないよう、さまざまな啓蒙・啓発が必要になろう。
なお、不動産の価格が上昇することは、常に単価が上昇することを意味するわけではない。宅地※3の需要が縮小している農業地帯や山間部では、土地の単価は長期的に下落を続けるであろう。地面の上に暮らす人の数が減れば、人が暮らす地面の量を増やす必要はないからである。そうであっても、「空間」の需要は増え続け、1人当りが利用する土地の面積は増え、豊かな「空間」を得られることになる。
※1:当稿は、筆者が2009年7月に「横浜不動産相談所」に記した『不動産価格の「シクリカル」』を加筆修正したものです。
※2:変化率に引き算を行うことは、分析方法として誤りであることを承知の上で計算しています。
※3ここで言う「宅地」とは、道路や上下水道などの基盤施設整備済みの土地を意味します。
伊東 良平
不動産鑑定士