日本は「先生族」に頼りすぎではなかろうか?

北村 隆司

「先生」の語源には詳しくないが、元々は自分が教えを受けている師(師匠)に対する敬称として使われていたが、その後、教員(大学も含む)代議士、弁護士、会計士、医師など知的職業に従事する人を対象にした敬称となった様である。

処が、知的職業に従事する人々の質のばらつきや先生と呼ばれる人が増えるに従い、先生と呼ばれて喜ぶ人を皮肉る「先生と言われる程の馬鹿でなし」と言う川柳が流行し出した。


この事を、もう少し真面目に取り上げた池田信夫ブログ(旧館2009-04-13)には、こんな事が書かれている。

企業の中では『課長』『部長』というように肩書きで呼ぶのが日本のマナーだが、これも外人がみると奇異に映るようだ。外資系企業では、同僚は(日本語でいうと)呼び捨てで、ほとんどはファーストネームで呼ぶ。日本人には「さん」をつけるが、外人どうしでMr.をつけることは上司でもまずない。ただ中国では『先生』という敬称が『さん』に近い感じで使われているので、日本語は中国圏なのかもれない。
こういうマナーは意外に重要で、日本でもマスコミは『さん』が多い。朝日新聞は民主主義だから社長も『さん』で呼ぶ――と入社試験のとき教えられた。NHKもそれに近く、ほとんど『さん』だ。出演者にも『先生』はつけないのが原則だ。

残念ながら、NHK番組に関する限り、池田信夫ブログは時代遅れで、今ではどの番組も「先生」のオンパレードである。

「料理人」「床屋さん、髪結い」と言う慣れ親しんだ呼び方を使う代わりに、「シェフ」「ヘアスタイルアーテイスト」とカナ文字に変えて「先生」と呼ぶのが現在のNHKの方針の様だ。

まさか、出演の「先生方」を馬鹿にして「先生」とお呼びしている訳ではあるまい。

それだけではない、ホステスは「マナーコンサルタント」、引越し屋さんは「物流コンサルタント」、守衛は「セキュリティコンサルタント」、廃品回収業は「廃棄物コンサルタント」、示談屋は「補償コンサルタント」、植木屋や庭師は「ガーデニングコンサルタント又は、ランドスケープコンサルタント」、花屋さんは「フラワーアーテイスト」と言った具合に「カタカナ化」にプラスして「XXコンサルタント」と読み替えて「先生」とお呼びしているのがNHK番組の現状だ。

その一方、ノーベル賞を受賞した山中教授などの呼称は「対面」していない限り「さん」呼びである。
これは、NHKの「カタカナ読み」と「コンサルタント」への尊厳の高さの表れなのか、「先生と呼ばれて得意になっている人を皮肉る」意味なのか、NHKに問い合わせた事がないので判らない。

それにしても、日本のコンサルタントの洪水ぶりは度を越している。

中には、舗装コンサルタント、包装コンサルタント国産豚肉コンサルタント、アイデアコンサルタント、片づけコンサルタント、「イメージコンサルタント」「浮気解決コンサルタント」など自分の身の周りの問題解決まで、先生に頼る時代になってしまった。

これでは、福沢諭吉が夢に見た日本の「独立自尊」への道は遠い。

暇にまかせて「ウイキぺデイア」で「コンサルタントの種類」を検索してみると、全国協会を持っている「コンサルタント業」だけで150業種を超えていた。

「塾」で育った日本人は、社会人になってからも「独立コンサルタント」「献立コンサルタント」など他人の助けを借りる癖が抜けず、「ひとりだち」もコンサルタントに聞く事になりそうだ。

この調子だと「先生と言われる程の馬鹿でなし」と言う川柳も間もなく「廃句」になりそうだ。
日本は本当に不思議な国である。

2013年1月14日
北村 隆司